白の女


「それはあの子が勝手に勘違いしてるだけだし別に騙してなんかないよ。大体太古の昔から狐は化けるものなんだからさほらあいつも」

バルトがルーシィの背後、出入口の方向を指し示す。

「あいつ?」

顔をしかめて振り返ったルーシィは、瞬間はっと息をのむ。

そこにいるのは、一人の少女。

石膏のような白い肌、簡素な白いワンピース。真っ白な短髪は顔にかからないよう、白いカチューシャで持ち上げてある。

白。
何もかもが白。

その不自然で圧倒的な白さは、橙色に染まる街の風景から浮き上がり、発光しているようですらある。

否、それよりも、バルトと同様の超然たる無表情で扉の前に佇む姿は、まるっきり。

「き……衣華ちゃん?」

「ほう、分かるのじゃな」

衣華だ。
白い衣華が、やはり同じく衣華の声で言葉を発した。

違うのは、尊大な語調と感情が欠落したような抑揚のない口調。

「その目は飾りではないということじゃの、模造の娘よ。この娘、こちらの世界ではなかなか派手な格好をしておるじゃろう?」

白い衣華の、膝下まであるワンピースの裾が揺れる。
フリルもレースもリボンも付いていない質素な服。
長い黒髪ではなく、短い白髪。

いつもの笑顔や、はしゃぐ様子が全くない。

何より、彼女のためなら何でもしてあげたいと思わせる、衣華特有の哀憐と愛憐を掻き立てる幼気な雰囲気が無い。

だから――違う。

目の前にいる彼女は衣華ではない。
同じなのは、姿と声だけ。

「また悪趣味なカッコしてるね何のつもり気分悪いんだけど」

「御主こそ、似合わぬ事をしおってからに。惨めなものじゃのう、この裏切り者め」

機械的に、何の感情も見せずに互いを罵る言葉を吐く二人。

何より、衣華の姿と声のモノがバルトを罵るという不可解な状況にルーシィは戸惑い、ただただ二人を見較べる。

「うるさいな黙っててよ耳障りだし目障りだからさっさと消えてほんと鬱陶しいなあ何しに来たの」

「そう邪険にするでない、愚か者。何、此方も準備が整うたでな。かつての片割れとして、正々堂々、宣戦布告に参ったのじゃ」

「準備?――お前」

微かに、バルトの声が緊迫したような硬さを孕む。

白い衣華は細めた目尻を異様なほど吊り上げ、色の無い唇の両端を耳まで裂けるほど不気味に引き上げ、ぞっとするほど異常で狂的な笑みに彩られた容貌を露顕させる。

人間ではない。

薄々分かっていたことだが、その悍ましい表情は無知なルーシィを怯えさせるには充分だった。





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