愛の夢
とろけるような夕日が、道に面した窓から射し込んでいる。
朱に染まる喫茶店らしき室内には、木製の椅子やテーブルが並び、カウンター奥の棚には果物や草花が描かれたカップや皿が飾られている。
壁にはアンティークの掛け時計、窓辺には写真立てやオルゴール、陶器の人形や華奢な花瓶。
ルーシィはそのどれもを興味深げに眺めていたが、最終的に最も興味を示したものは、大きな古びたレコードプレイヤーだった。
「どうしたのそれに興味があるの?それともそれが何か分からないの知らないの?」
無機質で無愛想な声。
無表情で椅子に座っているバルト。
ここにいるのは彼とルーシィの二人だけだ。
彼に反応しても無駄なことは分かっているが、少女人形はついきつく反駁してしまう。
「ばかにしないで。これくらい知ってるわ、音楽を聞くものでしょ」
「そうそう正解よく知ってたね。ご褒美に何かかけてあげるよ何がいい?」
「何か、って言われても……」
急に言われても、曲名など思い付かない。
バルトは考え込むルーシィの横をすり抜け、レコードプレイヤーの棚の引き出しを開けた。
中には古びた黒い円盤がいくつも押し込められている。
ラベルは英字だ。英語だということは分かるが、ルーシィには読めない。
「これとかあの子が好きな曲なんだから君もきっと好きだよ」
バルトは一枚のレコードを手に立ち上がる。
「どういう意味?」
「そのままの意味さ多分いい曲だよ」
そして、彼が慣れた手つきで針を落とすと、ルーシィの足元にあったスピーカーから、いくらかくぐもったピアノの音が流れはじめた。
穏やかで、美しい曲だ。
少女人形は既視感、否、既聴感とも言うべき、喪失感を伴った不可解な感覚を抱いてレコードに耳を傾ける。
綺麗な曲。
音の雫が清廉な旋律を優しく歌い上げ、甘い夢のように響く。
窓辺に雀が集まる。
ガラスを嵌め込んだドアの外に猫の影が見える。
――レコードを聴きに来ているのか。
そのことにルーシィが気付いた時には曲調は変化し、いくつもの音が高く重なり合い、断続的に、感情的に、不協和音のように烈しく打ち鳴らされていた。
それでも尚、美しい。
ふと見れば、バルトはいつの間にか姿を消していた。
どこへ行ったのだろう。
探すべきかどうかルーシィが逡巡している内に、曲調は元の穏やかで少し感傷的なものに戻る。
すると、それと同時にバルトも戻って来た。
虹色にきらめくガラスの鳥かごを右手に提げている。
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