dream.14.1
キキは無言で、上目遣いで僕を見る。
僕は心を鬼にして、険しい顔でキキを見る。
すると彼女はゆっくりと、ふらつきながらも座り込み、恥ずかしそうに首を傾げて話しだす。
「ちょっとね、跳んでみたの。ジャンプ。でも、よく分からなくって、着地もうまくできなくって、こうなったの」
「ジャンプって……何でまたそんなこと」
キキは少々考え込んで、突拍子もないことを言う。
「よーちゃん、夢って覚えてる?寝てるときに見る、夢」
「夢?うーん……何か見てたような気はするんだけど、起きたら全部忘れてる、かな」
「そっかあ」
キキはいくらか安堵のような、しかし落胆するような、ちょっと複雑な答えを返して俯いた。
「夢が、どうかしたの?」
「ん……夢でね、宙返りできたから。だから、ちょっと、ね」
要するに、宙返りをする夢を見て、現実世界で試してみたくなったのだろう。
呆れるべきかも知れないが、僕は何だか悲しくなった。
「それで、もう一度、夢を見に?」
「うん、そんなとこ」
幼い笑顔を見せるキキ。今朝遅くまで寝ていた理由はそれなのか。
――夢を見に。
そうして僕は考える。
どんな夢かは知らないが、キキにとっての夢とは一体何なのだろう。
視覚と聴覚、ただそれだけで生きる彼女だ。
夢と現実、それ程違いはないかも知れない。
「どんな夢だったの?」
「んー、色んな人が来るよ。喋るお面とか大きなドラゴンとか、すっごくきれいなお人形さんとか。
いつも、白い狐さんが迎えに来て、目が覚めるの」
「白い、狐?」
キキは確かにそう言った。
これは偶然……ではないだろう。
思い出すのは管狐。
祖父の狐は、白く光っていたからだ。
「よーちゃん、狐さんのこと知ってるの?」
「うーん……」
僕は何とも言い兼ねて、キキの頭を撫でてみた。
少女の夢と、管狐。
尋ねてみようか、竹筒に。
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