dream.14.0
「おう、お帰り、義経」
授業が終わり、家に着いたのは午後六時。
僕を迎えてくれたのは、キキではなくて祖父だった。
廊下は暗くて静謐で、冷えた空気が張り詰めている。
「あれ、キキはどうしたの?」
急いで靴を脱ぎ捨てる。
彼女が迎えてくれないなんて、不満ではなく不安が募る。
――キキに何かがあったのか。
嫌な予感を抱いてしまう。
「何じゃ、ワシじゃ不満か?ほれ、靴くらい揃えんかい。
キキちゃんは――部屋じゃ。寝ると言うてな」
「寝る?キキが?」
万年不眠のキキがお昼寝?
「夜寝れないから昼寝はしない」、そう決めてたんじゃなかったか。
怪訝に思うが、とりあえず、靴を揃えて立ち上がる。
「行ってみてもいいと思う?」
「好きにせい。管が要るなら言うて来いよ、もうじき飯じゃからな」
「うん、行ってみる」
寒い廊下を進んだ先の、襖を僕はノックする。
襖は互いにがたがた揺れて、ノックの音を増幅させる。
「キキ?寝てる?」
返事なし。
僕は再びノックする。
「キキ、寝てる?起きてる?」
「……おきてるよー」
緊張感に欠ける声。
僕は一言断って、襖を開けて中に入った。
「おかえりなさい、よーちゃん」
キキは布団に寝転がり、懐中時計を手中で弄る。
僕はしゃがんで彼女の髪を整える。
乱れた髪が口に入っていることすらも、彼女は分かっていないのだ。
「ただいま。珍しいね、キキが昼寝なんて。眠いの?」
「ううん、眠くないよ。眠くないけど寝ようとしたの。でもね、やっぱり寝れないの」
眠くないのに寝ようとしたのか?
僕にはさっぱり分からない。
嫌がる彼女の布団を剥いで、服をめくって四肢の状態を検める。
小さな膝に、擦り傷らしきものがある。
血は出てないが、怪我にかわりはないだろう。
「どうしたの、これ。駄目だよキキ、何かあったらすぐ言わなきゃ。出血や鬱血はないみたいだけど……」
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