予感が誘う

人並みの幸せ。
その言葉にルーシィは黙り込む。

衣華に人並みの幸せを齎すには、まず、五感を満たすことが必要だと彼は考えるのだろう。

人形とは言え、すべての感覚を有しているルーシィには、それが欠落した辛さは分からないけれど。

けれど、分かったこともある。

「じゃあ、あなたが衣華ちゃんに五感を?」

「僕にあの子の欠落を補完できるほどの力はないけどまあ関与はしてるよ。ねえルーシィ」

そう言って、バルトはルーシィの顔から手を放す。
そのままベランダの手摺りに寄り掛かると、屋内に逃げ込むべきかどうか逡巡する少女人形に澱んだ視線を投げかける。

「もし君があの子の人並みの幸せを願うなら君の中にあの子への愛があるならあの子を夕刻の僕の家まで連れて来てよ」

「それで、衣華ちゃんをどうするつもり?」

「そうだね知りたいならついておいでよ。僕の家に案内するっていうか本当は最初に案内したかった場所なんだけどね」

そう言えば、アンの家から連れ出された時、そんなことを言っていたような気がする。

――君の仕事を教えてあげる

そう、確かにそう言われた。

カミサマの役に立つことがルーシィの仕事だ、と。

「本当なの?本当に、衣華ちゃんのためなの?」

「うたぐり深いなあ本当だよ本当にあの子の為だよ。
嫌だ嘘だ信じられないって言うんなら聞こうが聞くまいが無視して拒否して逃避すればいいよご自由に」

「……」

手放しで信用できるとは思わない。

完全に信頼してしまうには、不明確な要素が多過ぎる。

けれど、彼は、衣華の不利になるようなことはしないだろう、とも思う。
希望めいた予感でしかないけれど。

「それで結局どうするの?」

見下すように見下ろされながら、ルーシィは考え、そして小さく頷いた。




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