時計が示す


バルトはただ淡々と、感慨も感情も何一つ気取らせない口調で語り、ルーシィの宝石じみた碧眼を無機質な瞳で覗き込む。

ディルが戻って来る様子はない。
他の住人が現れる気配もない。

常闇の街に、二人きり。

「あの子さ現実に同世代のオトモダチいないんだよね。前来てた二匹の女は格下の雑用係だし魚好きの狼男なんて論外だし可愛い紗英は替わりの男にべったりだし孤月寺の孫はあの子に惚れてるから純粋なオトモダチじゃないしね」

「寺の孫、って……あなたのことでしょ?」

一体何なのだろう。

紗英と言う女が好きだと言ったり、衣華に惚れていると言ったり。

どちらも本心である可能性もあるが、それは優柔不断とか浮気性といった言葉と同義であるような気がする。

「違う違うやだなあ僕は久田義経なんかじゃないよ。あいつは今――」

「よーちゃん」の名前は「久田義経」と言うらしい。
とは言え、ルーシィにはまるで思い当たる節のない固有名詞だ。

――否、それ以前に、バルトは。

「あ、あなた――」

――彼は、一体誰なのだろう。

バルトは懐から金色の懐中時計を取り出し、蓋を開けて時間を確認する。

以前見たときは遠くてよく分からなかったが、時計の蓋には仏像らしき図案が極めて精巧に彫られている。

「今は――学校だろうね。ねえねえ高等学校ってあの子より大事なものなのかな僕にはよく分からないけど何なんだろうね人間って何なんだろうね現実って」

そして、バルトは目を細める。

濁った瞳が見えなくなり、いびつに引き攣った顔筋が形作るのは、凡そ表情と呼べるような代物ではなく。

「くだらないよねえ」

仮面じみた白い顔。

空想実在に関係なく、生物らしからぬ無機質さと、屍肉のような生々しさを湛えた顔。

怯えながらもルーシィは果敢に聞き返す。
知ることも、知らずにいることも怖い。

だけど、きっと聞かなければならない。

彼を「よーちゃん」だと信じている、彼女の為にも。

「あなた……誰?」

「残念だけど現実の僕は名前も居場所も特定の地位も失ったから教えられることは何もないよ。確かなのはささやかな目的だけ」

「目的?目的って何?」

「あの子の欠落を補完して人並みの幸せを与えること以外にあると思う?」




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