世界が傾ぐ


「どうしてあの子が関係するんだい?」

心なしか、バルトの口調が違う。

焦っているような、怒っているような。
それでいて、哀しんでいるような。

「だ、だって、衣華ちゃんは、あなたのことが……」

好き、だと言っていた。

よーちゃん、ひいてはバルトのことが。

なのに、その彼が、別の誰かに心を寄せているとしたら。

――報われない。

衣華の為なら何だってできるとは言っても、こればっかりは他人がどうこうできる類のものではない。

ルーシィは苦しげに顔を歪める。
バルトは無関心げに淡々と言葉を述べる。

「ああやっぱり分かりやすいよねあの子って。僕としては実に好都合だよ」

「どういう意味よ?」

「どうって言われて説明しても君がどこまで理解できるか分からないしどこまで知ってるか知らないし。あっ」

バルトは不自然な声を発し、バルコニーの手摺りに飛び乗った。

と思った次の瞬間には、決して狭いとは言えない幅の道を跳躍し、ルーシィのいるベランダに降り立った。

反射的に逃げようとする少女人形の顎から頚を左手で捕らえ、右手で彼女の瞼をめくるようにして瞳を観察し始めた。

当然反抗するルーシィだが、踏まれても蹴られてもバルトは動じない。

「うーんどうしようかなこればっかりはどうしようもないのかな困ったなあ。それで君はどこまで知ったの?」

「何の話?」

「君は質問しかしないね。だから夢とか空想とか理想とかこの街のこととかだよ」

つまり、この街の正体は衣華の夢である、ということか。

ルーシィがそう尋ねると、バルトは無表情を保ったままで小首を傾げた。

「駄目だね何だか噛み合ってないね。もしここがあの子の夢だって言うんならあの子が現実で起きて活動してる今この時にも夢の世界が持続してるのはおかしいと思わない?」

「え?あ――お、おかしいわ」

言われて初めて気が付いた。

この世界が本当に衣華の夢ならば、彼女が目覚めると同時に夢の世界は消えてしまうはずだ。

だとしたら、この街は一体何なのだろう。
始めから夢ではないのだろうか。

それとも、衣華ではない誰かの夢なのだろうか。

衣華はこのことを知っているのだろうか。

分からない。

「いいよ大丈夫だよ君は何も知らなくて。僕が君に望むのはあの子と所謂オトモダチになってくれることだけなんだから」




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あきゅろす。
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