玩具が光る


次いで、吸血鬼の手がドレスにかかる。

ルーシィは身をよじって抵抗するが、彼の腕力に敵うはずもない。
露出した乳房を弄ばれ、スカートの裾から侵入してきた指に過敏な部分を擦られる。
胸の先端を柔く押し潰され、ルーシィは明確な恐怖に悲鳴をあげる。

「いやあッ!」

身体をよじり、手足をばたつかせ、少女人形は必死の抵抗を試みる。

嫌悪と恐怖と、言いようのない閉塞感。加えて、裏切られたような辛さと悲しさが彼女を追い詰める。

「……ごめんな」

妙に冷めた頭の片隅で、謝らないで欲しいとルーシィは思う。
謝るくらいなら、触れなければいい。
なのに、都合よく触れて、自分勝手に謝るだなんて、そんなのは卑怯だ。

「やめて、放してお願い……っ!」

もがくルーシィの肘がぶつかり、招き猫が床に落ちてしまう。
衝撃で招き猫の首と胴体が別れ、ガラスのおはじきとビー玉のこぼれる涼やかな音が鳴る。

その瞬間、ディルの力が緩んだ。
隙を付き、ルーシィは彼の下から抜け出す。

散らばったおはじきとビー玉の傍らに蹲り、ベッド越しに吸血鬼へ怯えた視線を送る。

「……ディ、ル?」

吸血鬼は、マントで顔を隠し、壁に背を預けて呻いていた。
ひどく苦しそうだ。

「お前、何を……っ」

「な、何もしてないわ!」

無理矢理押さえ付けられて、怖くて、暴れて。
招き猫を落として、玩具を撒き散らして、その隙に逃げただけだ。

吸血鬼はガラスが苦手なのだろうか?
それは初耳だ。
と言うより、有り得ないだろう。

「――吸血、鬼?」

ルーシィは何かに気が付いたらしく、身体を起こすと、ドレスを直すことも忘れ、散乱したおはじきとビー玉を一心不乱にかき集め始めた。

手当たり次第に招き猫の身体へ放り込みながら、ただ一つのビー玉を目で探す。

確か、赤いラインが入っていた筈だ。そして、ヒビも。

吸血鬼は辛そうに肩で呼吸をしている。
時折洩れる嗄れたうめき声が少女人形を焦らせる。

「待ってて、すぐに……あった!」

見つけた。赤いラインとヒビのビー玉。
仄かに発光しているようにも見える。

それは、源頼光と名乗った小さな鎧武者が、昼の獅子舞の角を折ったときの、いわば弾丸。

落とした衝撃か、ヒビが大きくなっているそれを、ルーシィは招き猫の中に放り込み、急いで蓋をする。

同時に、ディルが床に崩れ落ちた。




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あきゅろす。
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