class.13
休み時間の教室に、温い陽射しが窓の形の光を落とす。同級生は話と娯楽と午睡に夢中で、それは僕とて変わらない。
「疲れてたのかもな」
僕の机の脇に立ち、深也は暗く呟くが、目が合った途端焦ったように明るく笑う。
だらしなく垂れたネクタイと、第二ボタンまで外した着方は、いくら教師に言われようとも直らない。
「……ってか、寝坊くらい誰だってするだろ。いい夢見てる時とか、前の日に寝てねー時なんか尚更、な、義経は心配し過ぎだっての!」
だけれども。
今朝は狐がキキを起こしに行ったのに。
なのに彼女は二時間近く、普段より長く眠っていたのだ。
そうは言っても、やはり深也に狐のことは言えないが。
「そうかも知れない。けど、深也だって、坂中さんが遅刻とか欠席とかした時、めちゃくちゃ心配してるだろ?」
「当然だ。坂中のいない学校なんてのは、辛く厳しい強制労働施設と変わらねーからな」
「それと同じだよ。多分」
僕は少しだけ笑って応える。
茶髪で凛々しい面立ちの彼、大岡深也は、とある少女に五年間ほど一途な思いを寄せている。
「軽い」「チャラい」と思われがちだが、実は案外誠実なのだ。
そして喜ばしいことに、どうも近々、報われそうだと聞いている。
羨ましいとは思わないけど、時々無性に寂しくはなる。
やがて深也は頷いて、そして続けて首を振る。
「違うだろ。全然違う。そりゃあ坂中は格別の、照れ屋で無口な至高の美少女だ。
けどよ、キキちゃんはまた別だろ。別格っつーか、別注っつーか……」
深也は何を言いたいのだろう。僕は深也の言葉を待った。
「特……別枠?ああ、そう、そんな感じだ。
あの子は特例だ。身体的な話じゃなく、絶対、何かある」
「何か、って言われても……」
確かにキキは特殊だし、僕にとっては別格だ。キキのためならどんなことでもしてやれる。
三つの欠如をその身に抱える、小さな彼女のためならば。
「近田と玉井まで協力させたんだろ?」
「うん、髪を切ってもらった。まあ、させたって言うか、彼女たちの方から申し出てくれたんだけど」
「その時点で特別枠だろ。二人の世界に篭りきりのあいつらが、別の女に協力するはずがねーんだからな。……あの子は、すげえよ」
「……あぁ」
顔を歪めて思わず呻く。
つまり、そういうことなのだろう。
僕にとっては特別だけど、それは僕だけではないと、そういうことかと俯いた。
[Next#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!