愚の骨頂

しかし、実感が湧かない。

赤い顔の獅子舞。光の聖獣バロン。それだけだ。

直感も六感も埋もれたままで、ルーシィを導くものは何一つ存在しない。

「それではお聞きします。貴方は、娘さんの特殊性に気付いておられるのですか?」

「――特殊……欠落?」

「欠落?何の話ですか?」

どうやら、鎧武者は衣華の感覚器のことまでは知らないらしい。
一つ一つ、平べったいおはじきを拾い集めながら、ルーシィは二人の会話に耳を傾ける。
バロンの背中に跨がるスイも両の翼を組み合わせ、黙りこんでいる。

「――触覚、味覚、嗅覚」

「愚かな」

鎧武者が言うと同時に空を切る鋭い音がして、続いて硝子を砕くような高く激しい音がした。

見上げたルーシィの目に映る、ヒビの入った赤いラインのビー玉と、片方の角を失ったバロン。

鎧武者がビー玉でバロンを攻撃したのだ。

折られた角は石畳に墜ちると泥土のように崩れ、そのまま大地に吸い込まれる。

「貴方が父親になったのは、間違いだ」

唖然とするルーシィを余所に、鎧武者はビー玉を投擲したポーズのままで暗く、低く呟いた。
背後の獣たちも唸りはじめる。

「――私も、同感」

片角のバロンは俯き、陰気な語調で暗く応える。

「自覚はあるようですね。
しかし、貴方の娘さんは本当に素晴らしい。許されるものならば、わたくしが引き取って養育したいほどです」

「いいんじゃねーの?まあ、あんたが本物の源頼光なら、な。
そしたら俺も現実で遊びに行ってやれるし――」

翡翠のハルピュイアは、この上なく優雅で軽やかな動作で、バロンの背から飛び降りる。
そして、赤い線とヒビの入ったビー玉と首のない招き猫を握りしめてうずくまるルーシィの肩を抱き、立ち上がらせた。

まるで小さな子供にするように、ドレスに包まれた肩を撫で、愛らしい顔を覗き込む。

「ルーだって、あの子が平穏無事に息災な方が安心できるだろ?」

ルーシィは頷く。

衣華が無事なら、安全なら、その方がいいに決まっている。
けれど、少女人形は頷きながら大粒の涙を落とし、震える声で反発する。

琴線を辛く刺す後悔のような情感は何か、それさえも分からずに。

「……でも、駄目だと、思います」




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