娘の希望
「――普通など、不在」
「あっそ。なら、ルーは何者だ?常駐連中のことはよく知らねーが、少なくとも、俺や頼光とは何かが違うんだろ?」
「――あの子が、望み、求め、憧れる」
「ふうん?要するに、あの衣華って子が望んでっから、ルーはここから出られねーのか?」
「――見当違い」
「じゃあ別の奴が原因か?」
「――因果は唯、一つ」
それきりバロンは口を噤み、頭を振りながらおどけるようなステップを踏む。
にわかに陽射しが強くなり、カラフルな提灯がぶら下がったいくつもの窓ガラスに、白く反射する。
一向に的を得ない。
スイは激しい動きに翻弄されながらも、器用に獅子の頭をひっぱたく。
笑ったような仮面のままで俯き、動きを小さくするバロンに、ルーシィは少しの憐憫と同情の微笑を禁じ得ない。
「あーもう!回りくどい言い方してんなよ、このケダモノ!俺には分かるんだぜ?お前、衣華って子のこと」
「――親子、父と娘」
淡々として、抑揚のないバロンの言葉。
途端に痺れのような感覚が全身を駆け抜け、ルーシィは招き猫を取り落とした。
硬い音を立てて猫の首と胴体が分離する。
胴の空洞から転げ落ちるのは、いくつものカラフルなビー玉とベーゴマ、ガラスのおはじき。
足元に転がってきた赤いラインのビー玉を、鎧武者は両手で陽光に掲げ、得心したように頷いた。
「それは初耳ですね。死して尚、愛する娘の為に尽くしていたのですか。正誤は分かりかねますが、御立派です」
冷静な鎧武者とバロン。
翼で口元を覆い隠し、無言で考え込むスイ。
ルーシィはひどく困惑する。
しゃがみ込み、震える手で硝子の玩具を拾い集め、首のない招き猫の身体に詰めていく。
サリーは衣華の亡き祖母。
鶴女房の司華は衣華の母親。
そしておそらく、バロンは衣華の父親。
寺に預けられていると言った衣華。
味覚と嗅覚を持たない少女。
これでは、あまりにも――
「――これは、罰」
「これはまた自虐的な見解ですね。生きる限り、死は避けようのないものでしょう。
それとも、心当たりが?」
「――敗走は、大罪」
「ああ、はいはい成程。確かにそれは好ましくありませんね。追求は致しません、が、もう一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
金属的な音楽の中で、バロンが頷く。
ルーシィは、二人の会話についていけない。抽象的すぎてよく分からない。
ただ、気付いたことはある。
バロンが衣華の父ならば、それはサリーこと三城荒子、すなわちルーシィの息子、ということではないだろうか?
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