光の獅子
「そうなんですか?」
「――今の私は、光」
そう言うと、バロンは頭を振り、陽気で奇怪なステップを踏みはじめた。
不可思議な金属音が高らかに鳴り響くと、背中にしがみついたスイが「この音、ガムランって楽器なんだぜ」とルーシィに説明する。
途端、視界が白くなる。
急激に勢いを増した真昼の陽光に熱された皮膚が、熱い。いや、暑い。
細めたルーシィの碧眼に映るのは、強すぎる日光の中、踊り続ける赤い獅子。
「これが、彼の仕事のようです」
兜を目深に被った鎧武者が、ルーシィの足元で声を張る。
「彼は、この街を明るくする為に光を生み出し続けています。いえ、光と彼を同一視しても間違いではないでしょう。
ただ、すべての区画を均等に照らすことは、流石に不可能なようです」
つまり、中心点を挟んで真逆に位置する夜の区画には、バロンの生み出す白い光が届かない。
少し離れた朝と夕の区画も、中心である彼から離れたために光が屈折し、陽光が青ざめたり、赤みがかったりしているようだ。
光を操る彼は、実質、四区画を差別化している最たる存在でもある。
説明する鎧武者に、ルーシィは幾度も頷く。
彼は常駐組ではないとはいえ、かなりの事情を知っているようだ。
やがてバロンのダンスが鎮まると、辺りには正常な明るさが戻った。
遠く、太鼓とガムランの音が、断続的に鳴り続けている。
スイはずっと閉じていた目を開き、バロンの乱れた毛並みを翼で撫でてやる。
「つってもよ、光一辺倒ってのも良くねーんだぜ。魔女いねーの?魔女魔女ランダ」
「――闇を背負うのは、夜」
「ん?あーはいはい成程な。役割分担はきちっとしてんのか、へー」
「それにしても、よくご存知ですね。翡翠のお嬢さんは、神話や伝承にご関心が?」
鎧武者の疑問を、スイはバロンの背に顔を埋めるように頷くことで肯定する。
「っつーより、みんな大好きだろ?人知を超えた大いなる幻想に憧れんのは罪でも奇異でも何でもねーよ。だって、魅力的だもんな」
そうかも知れませんね、と、鎧武者は少し曖昧に微笑む。
スイは上目遣いでルーシィに笑いかけ、尚もバロンの毛に顔を擦りつける。
「でさ、バロンちゃん。ルーが異質ってどーいうことよ?
俺や頼光やバロンちゃんが普通って意味か?」
バロンは激しく頭を左右に振り、金属音と毛の擦れる音、装飾品のぶつかる高音を鳴らす。
それが遠く鳴る太鼓や笛の音と混じり合い、底抜けに明るい町並みに、無国籍な祭囃子を響かせた。
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