獣の登場


「……俺は休日だ。明日の激務に備えて肉体を休めるのは、義務だ」

スイは赤鬼を掴んだまま、ルーシィの背後に移動する。
空いた左の翼を少女人形の肩にかけ、その淡い金髪に頬をすり寄せる。

「んで、ルーは常駐組。記憶喪失のオプション付きで、な」

「成程、記憶に不備ですか。
……ん?常駐?」

首を傾げる鎧武者。
しかし頭が大きすぎ、そして兜が重すぎる。

バランスを崩してよろめいた彼を、白に黒いトラ柄のやけにふわふわした子猫が、自身をクッション代わりにして護る。

涙ぐましい主従関係も、まるで人形劇のようで緊張感がない。

更に喧しくなる祭り囃子。

最早太鼓や笛の音すらまばらで、圧倒的な大音量で響くのは儀式めいた不可思議な金属音。
純度の高い金属でできた草原を、荒南風が渡るような音。

「お姫様は、常駐組でありながら、境界を越えられるのですか?」

瞬間、あれほど煩かった音楽が、ぴたりと停止した。

無音の昼とはどうにも不気味だ。

「――この子は、異質」

そして、唐突な背後からの声。

ルーシィは驚愕のあまり、危うく招き猫を取り落としそうになる。

スイも同じように驚き、しかし彼女は小さな赤鬼を手放してしまう。

地面に落ちた赤鬼は、鳥女と鎧武者に子供っぽいしかめっ面を向け、少女人形を横目で睨んであっけなく霧散した。

「漸く起きてくださったようですね。皆様のご協力、感謝致します」

鎧武者はそう言うと、今度は転けないように、ほんの少しだけスイやルーシィ、更にその向こうの誰かに頭を下げる。

しかし、当の彼女たちは振り向き、背後で首を傾げる奇妙なモノに目を奪われていた。

「――どう致し、まして」

牙を剥いた真っ赤な仮面、長い被毛の白い身体。
スタイルとしては日本の獅子舞に似ているが、どこか愛嬌のある飛び出た目玉や異国的で原始的な装飾品は、それとは決定的に違うものだと示している。

「え、うっそ!バロンじゃん!」

スイは歓喜の声をあげ、紅白の獅子舞らしきものの背に飛び乗った。

乗られたそれはぶるぶると小刻みに震え、くるくると首を左右に傾げ、ふらつくようなステップを踏む。

そのたびに先程の奇妙な金属音が鳴り響き、ルーシィはそれの正体に思い至る。

――朝の蜘蛛女、昼の獅子舞、夕の鶴女房、夜の吸血鬼。

――常駐組はそれだけですわ。

「昼の、獅子舞……常駐組……」

呟けば、赤い顔のそれは反対方向へ首を傾げ、不可思議な音を鳴らしながらルーシィへ向き直る。

「――似て非なる、モノ」

「そーそー。獅子舞っつーのは魔除けや守護で、バロンは闇と戦う光の聖獣だからな。
バロンがいねーと世界は均衡を崩して、闇に支配されちまう」




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