鬼の正体
「……なあ、武将さん。あんたが鬼退治の英雄源頼光様だってんなら、そこのしょぼい動物共は四天王か?んで、鬼ちゃんが酒呑童子、っと」
とらわれの赤鬼が「ゲッ」と妙な声をだした。
悪戯がばれた子供のような表情で。
「よくお分かりで。わたくし、貴女のような聡明な方は大好きですよ」
鎧武者は上品に微笑む。
父親が娘に向けるような、優しいと言うより甘いと言った方が正しい笑顔。
四匹の動物たちは、つぶらな瞳をそれぞれ少し見開き、凛と立つハルピュイアを見上げている。
「はっ、あんたに好かれても嬉しかねーよ」
「おや、好いてもらいたい方がいらっしゃいましたか」
鎧武者がそう言った瞬間、スイに変化が起こった。
目を見開き、あれほど饒舌だった唇は何かを言おうと小さく開いて震えるだけで、何より、青白かった額や頬がみるみる朱色に染まっていく。
ルーシィは何が何だか理解できず、ただハルピュイアと鎧武者を見比べた。
ひょっとして、スイは体調が悪いのだろうか?
あり得る。
彼女は、特別製のルーシィと同じように、昼と夕の境目を越えてきたのだ。
ディルにもアンにも不可能なことを、翡翠の鳥女は成し遂げた。
ルーシィの気遣わしそうな視線に気付いたのか、スイははっとしたように少女人形を見返すと、激しく頭を振った。
「や、気に、すんな。何もねーから」
「そうですか?顔、赤いですけど……」
「赤くねーよ!赤は妹だけで十分だ!」
スイが両翼を激しくばたつかせると、局地的なつむじ風が巻き起こる。
色とりどりの提灯が揺れて互いにぶつかり合い、幟ははためき、ルーシィは少しだけふらついて踏みとどまる。
先ほどから笑いを噛み殺していた赤鬼は、今度は悲鳴を噛み殺して翡翠の翼に振り回されている。
鎧武者は吹き飛ばされないように、四方を四匹の動物たちに取り囲まれて押さえこまれて護られている。
まるでおしくらまんじゅうだ。
とは言え、右手で兜を押さえて品よく笑う彼からは、どこか余裕すら感じる。
「すみません、翡翠のお嬢さん。少々非礼が過ぎましたね」
ルーシィは首を傾げる。彼の謝罪の理由が分からないからだ。
スイは送風を止め、憤然と腕を組んで子供のように頬を膨らませた。
苦笑いする鎧武者と、うんざりしたように鎮静化する赤い鬼。
「そういえば、お二人はまだ帰らなくてよろしいのですか?
いえ、決して帰したい訳ではありませんが」
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