祭の予感


まず目に付いたのは、一定間隔で立ち並ぶ紅白の高張提灯だった。

提灯の表面には毛筆で様々な文字が書かれている。

ルーシィは長い竿の先にぶら下がった二つ一組の提灯を、興味深げに見上げてみた。
向かって右の紅い提灯には「火」、左の白い提灯には「獅」と書いてある。

首を傾げながら道を挟んだ向こう側の高張提灯を見れば、その文字は「祭」と「光」だった。

一帯には、縄が幾重にも張り巡らされており、淡いピンクや黄色、黄緑色や水色の小さな提灯がいくつもぶら下がっている。

縄の所々には笹の枝がくくりつけられ、それを飾り立てるのは色紙で作ったぺらぺらの鎖や千代紙の折り鶴、小さな和紙の短冊などだ。

まばらに立つ縦長の旗、或いは幟には、太陽のイラストが橙色で描かれ、その下に何やら毛筆で文字が書かれているが、行書なのでルーシィには理解できない。

ロマネスク様式の豪奢な屋敷の窓辺には、きれいな破魔弓や酉の市を彷彿とさせる熊手、大小様々な達磨、黄金色の招き猫、カエルやフクロウの置物が無造作に溢れかえっている。

和洋折衷という言葉があるが、この区画の状況は決してそのような和やかなものではない。

洋風の建造物と和風の装飾品はそれぞれ逆方向に主張し増長し、結局、何が何だかよく分からない奇妙奇天烈極まりない、どっちつかずの不可思議な景観の街並みへ昇華させている。

ピンクの提灯で飾られた重厚なガーゴイル像など、まさに血も涙もない情景だ。

少し狼に似ているその頭に、天狗が乗っていたりすれば尚更だ。

「……ひっ!」

ルーシィは危うく転けそうになるが、どうにかこうにか踏みとどまった。

驚いた。

ガーゴイル像の上から、長い鼻に赤い顔の山伏が、厳めしい表情で腕組みをし、静かに彼女を見下ろしているのだ。




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