ファインダー
イタイ、イタイ、じりじり刺さる視線がイタイ。
体中に穴が開く、と、錯覚してしまうほど、鋭く、真っ直ぐ刺さるソレと
髪の毛一本逃すまいと絡みつくアツさに
頭がクラクラする、と思っている間に撮影は佳境に差し掛かり、
ユウシュウなカメラマンのおかげで無事、終了した。
「お疲れ様でした、」
「おー、今日もイイ感じにエロかった」
「なんすかそれ」
ハハ、と愛想笑いを返すと仕返しだと言わんばかりに、ライト焼けした髪の毛をグシャグシャに掻き混ぜられた、
瞬間、隙間から見えた瞳にはたしかに劫火のごとく、炎が灯っていた。
仮面を張り付けたじゃれ合いなんて求めてないのに、白々しい。
ファインダー
「…何読んでるの?」
「オメェのファンとかゆうやつからのラヴレタァ」
撮影後、事務所のスポンサーとの化かし合いにいい加減辟易して、マンションの重い鉄の扉を開けたら、人の温もりがした。
ただいまより、不法侵入だ、より先にその手元に目が行く。
「ふーん、早かったんだ、」
「ネガ、持って帰ってきた」
「うわ、サイテー、締切守ってよ?」
「初、写真集だもんな、それよりくせぇ」
それまで手元にあった、俺宛てのラヴレタァをグシャりとゴミ箱に投げ捨てて、
首筋に鼻を押し付けられる。
掴まれた右手がイタイ。
「こっちだって色々あるんだよ」
「ふーん、こんなに香水の匂いさせて、ナニやってたんだか、」
蔑むような科白と矛盾した瞳の温度に粟立った。
「スタジオにいる時以外は無愛想なカメラマンの変わりだけど?」
「はっ、誰の許可得てオレ以外の匂いプンプンさせてんだ、って聞いてんだよ」
食い千切られるかと思う程強く、唇に噛みつかれて言葉は音を成すことを止めた、
「ぅあ、はっ、あ」
「ほら、こっち向けよ」
器用に律動を続けたままカメラのファインダーを覗く、
焚かれる光。
「あくしゅ、み、ぁ」
「俺だけでイイのになァ」
眼前で強いストロボが焚かれて目がチカチカする、
「ぃた、い、」
「誰も見なくてイイのになァ、お前もそう思うダロ?」
「なにがっ」
撮影中みたいに頭がクラクラしてきて、気持ち悪い浮遊感に襲われる。
意識を手放したいと瞳を閉じる度に、内臓を引きずられる感覚と瞼越しにも分かる強い光に
引き戻される、ゲンジツに。
「ファインダー越しにだって誰にも見せたくねェくらいに、オマエをアイシテルのに、」
「ぁ、はっぁ」
「なんだかなァ、一向に手に入った気がしねェのは、何でかね、」
炎が一瞬、揺らめいた。
「ふざけんな、よ、」
いつだって、アンタの気持ちはイタくて、俺は逃げ場を失うのに。
はじめてそのファインダーに写り込んだ時から逃げ場なんてなかったんじゃないかと錯覚する位には、イタくて、アツくて、
それなのに、今更、灯火のように揺らめくなんて、
「閉じ込めてみろよ、」
その腕の中に飛び込むしかないじゃないか!
終
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