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サクラとソラ


サクラなのにナツなんだね、


そう言ってソラは笑った。


サクラとソラ


「で、佐倉はどうしたいの?」

はぁ、と担任が何度目になるかも分からない溜息をついて、
これまた何度目になるかも分からない問をよこす。

「あー、とりあえず、現国と英文がない所ならどこでも、」
「おいおい〜、ほんとしっかり考えろよ、今の時代フリーターは厳しいぞ」
「あ、もうこんな時間だ、俺、ドラマの再放送見たいので帰ります」

そう言って俺は座り心地の悪い椅子から腰を上げた。

担任の呼び止める声がしたけど、
こればっかりはしょうがないんだ、本当に、進学とか、就職とかどうでもイイ。

俺、佐倉 夏は現代にありがちな希望や夢を持たない若者の一人だ、ついでにいうと文系はてんでダメで何度も教科担当に泣き付かれた事がある。
国語だって日本語が喋れたらそれでいいと思っているし、
英語だって今のところ英語圏に出掛ける予定だってない、なにがいけないのだ、

だって俺が今気になるのは、今日のドラマの内容と、それと…、


「ハルちゃ〜ん!」

下駄箱で室内履きを履き替えていると前方からマヌケな声がした、

「だから、俺はハルじゃなくてナツだ!」

マヌケな声の持ち主、相良 郡治は小脇にサッカーボールを抱えて手を振ってくる、
相良は3年になってから同じクラスになった、きっと俺以上に教師泣かせな生徒だ。
毎年、毎年、進級出来ることが奇跡だと、同級生のみならず、下級生にまで実しやかに囁かれる程壊滅的なのだ、
何がって?
成績も、本人のヤル気もだ。

「だってサクラじゃんか〜」

何か可笑しな所でもある?
と言いたげな眼をしてニコニコと笑いかける。

「俺の苗字は花の桜とは違う」
「いーじゃん、サクラは春に咲く花だし、それにハルって可愛いし、ね!それより早く帰ろうよ〜」

この男には何を言ってもダメだと諦めて踵をバッシュに詰め込んで相良の横に並んだ。

気になるもう一つは悲しい事にこの男だ、
人の名前もちゃんと呼べない、マヌケなこの男が、
新学期にヘラヘラと笑い掛けられた瞬間から、どうにも気になってしかたない。

「ハルちゃん担任となに話してたの〜」
ピョンピョンと自分の影を踏もうと跳ねながら相良は尋ねる。
「あー進路について」

「ふーん、で、ハルちゃんどうするの?」
「たぶん進学、近くの大学にする」
「じゃあ俺もそこにしよーっと」

「は?」

今のは聞き間違いか?
急に耳でも悪くなったか?

今、コイツは何といった?

「だから〜俺もハルちゃんと同じガッコに行って〜キャンパスライフ満喫するの〜」

うふふ、と気味の悪い声で、締まりのない顔で、笑う相良の頭を思わず叩いた俺は間違ってない、うん、俺の行動は正しい。

「いった〜い、ハルちゃんのバカ」
「バカはお前だ!お前自分が大学に行けるだけの学力を持ってるとでも思ってンのかよ」

バカだ、マヌケだと思ってはいたがコイツがここまで頭の悪い奴だとは今まで気がつかなかった。

「俺だってやれば出来るんだよ〜?それにハルちゃんだって俺と離れるのイヤでしょ〜」
「バカかっ」
「おバカなのはハルちゃんだよ〜早く郡治すきすき〜って認めなよ〜」

横を歩いていた買い物帰りの主婦がギョっとした顔を見て
カ、っと頭に血液が集まってくる感覚がする、
だから思わず、そう不可効力で、もう一度この目の前で笑う正真正銘の大バカ者の頭を強く叩いた。
勿論グーでだ、そうだ、俺の行動は正しい、俺は悪くないぞ!


「誰がお前と同じ大学なんて行くかバーカ!」

自分の顔と同じくらい赤い夕焼け空を背景に、思いっきりスタートダッシュを決めた。

「あ、ハルちゃん待ってよ〜」

誰が、誰を好きだって?

ふざけんな、公衆の面前でそんな事認めれるかっ

「告白は桜の舞う青空の下で、って決めてるんだ!って何言わせるんだよ!こんのバカヤロー」

「あは、ハルちゃん、そーゆうの墓穴を掘るって言うんだよ〜」

こんなバカな男に見透かされていただなんて、人生の汚点でしかない気がしてきた。




季節が巡って、もう一度桜が咲くころ、
去年と同じヘラヘラとした顔をして俺の隣に現れた男をもう一度殴った事は言うまでもない。




二人揃って一目ぼれだったという裏設定。


佐倉 夏―サクラ ナツ―
3A組。理数は強い、日本人なのになぜ文系が壊滅的なのかと担任に頭を抱え込まれた事のある文系クラッシャー。

相良 郡治―ソラ グンジ―
3D組。勉強はダメ、学校は遊びにくる所デショ?進級出来たのが奇跡だと毎年定評のあるケセラセラ少年。




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あきゅろす。
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