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戸籍課
4.

まるで希望に満ち溢れた青少年のようにランランと目を輝かす九十九に対し、
伊東は、まるで何日も人の目が触れる事がない排水溝のヘドロでも見るような視線を九十九に送り返す。

「その目、好い!」

親指を立て右腕をグ、と突き出し悶える九十九に、
漸く収まりかけていた木々間の笑い声がまた響いた。


「と、とにかく、冷やかしで来られたのであればお帰り下さい」

伊東は確信をもって思った、
きっとこの男は脳味噌が沸いているのだ、
朝のローカルニュースで変質者が出たと見たが、この男で100パーセント間違いないだろう。

「伊東、っくく、コイツさ、おもしれっ、からさ、もう少し構ってやれよ、ははっ」

人の気も知らないで笑い続ける木々間にも九十九に向けたのと同じ眼差しをむけ、
そして、
今日は厄日だ!と強く、強く、思った。

「伊東さんはお幾つですか?」
「お答えできません」
「伊東さんのお名前をお聞きしても?」
「お答えできません」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね、俺は九十九 総司と申します、お気軽にダーリン、または、あなた、とお呼びください」

「お帰りください」

「今、婚姻度届けを書き換合えますから、さぁ!ここに署名を!永遠の愛を誓いましょう!」

九十九は持ち込んだ婚姻届を何のためらいもなくその場で破り捨てるのが先だったか、
新たに自分の情報だけを書き込んだ婚姻届を差し出したのが先だったのか、

目にも留まらぬ速さで片頬を曳くつかせる伊東にきらきらとした笑顔と、婚姻届を向ける。

どこかで感嘆のため息が聞こえた気がしたが伊東は目の前の男にはっきりと溜息を零し
ビリリ、と差し出された婚姻届を破り捨てて、


「お出口はあちらになります」


今日一番であろう笑顔を向け自動ドアを指差した。




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