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小説
『魔王、計算違い』
―― おそらくそれは、“物語”としてどこか狂った結末。

一つの世界がある。
その世界はここ数年、異常な現象が続き、賢王と称えられた王が、悪政を敷く変化までもあった。

―― 全ては魔王、その力によるもの。

偶然か、それとも何かの導きか、一人の少年とその仲間が賢王の呪いをとき、元に戻った王に請われ、魔王と戦うことを決意する。

―― 彼の者こそ勇者。仲間とともに、剣をとった。

魔王の配下達を倒し、ときに人々の助けとなり、彼らの旅は続く。困難に立ち向かい、それを越える度に絆は強く、確固たるものとなる。

―― 決戦の日、彼らは誓った。必ずや魔王を倒し、全てを取り戻すと。

☆…☆…☆

「―― …ってのが、今までのお前らだよな?」

確認のために聞けば、それだけで死ぬんじゃないかという視線で睨まれた。

「…こっえーの。いや俺も悪いとは思ってんよ」

けどさ、と。

「勝ったもんは、仕方ないだろ?」

暗闇の化物。

「あと、あいつらまだ生きてるし」

悪そのもの。

「一応まだ終わってないし」

全ての魔を統べる王。

「…魔王…貴様は……」
「なんだよ」

数々の異名を持つ魔王は、倒した勇者を心底困ったという顔で見ていた。

☆…☆…☆

こういう時は、どういう言葉をかけるべきなのか。

というか、ぼこぼこにした張本人が慰め(?)ていいものなのだろうか。

魔王と呼ばれている男は、とても困っていた。

「…なぜ」
「ん?」

勇者と呼ばれている少年が、床に這いつくばったまま魔王を睨んでいる。

「なぜ、殺さない…?」
「あー…なんつーか」

勇者だけではない。
魔法使いも、修道女も、騎士も、傭兵も、盗賊も、誰一人死んでいない。

全員いわゆる“半殺し”とか“気絶”の状態で、魔王はとどめをささなかった。

「…初対面の奴らに」
「…は?」
「初対面の奴らに、いきなり殺意はわかねーわな」
「…………は?」

いったい自分はどう思われているのだろうか。

いや確かに酷いことはした。都市をいくつも焼いたし、命令して賢王に呪いもかけさせた。

しかし、どれも理由はあった。意味なく、楽しいからなどという理由でしたことなど一度もない。異常な現象は、自分でもどうしようもなかった。世界のバランスを崩すほどに、魔力が強すぎたのだ。

「…人が憎くて仕方ないと」
「そりゃあ、そちらさんの勘違いだな」
「無抵抗な人々を魔物に襲わせたと」
「最近あいつらの餌場が畑とかにされてたからな、気がたってたんだろ。てか低級な魔物は言葉通じない」
「都市を焼いた…!」
「同胞の町を焼いたのは誰だよ? なのに何もしないじゃ何のために王がいるかわからん。そういう理屈はそっちと同じだよ」

なにも言えなくなった勇者を見て、魔王は苦笑した。

彼らに彼らの真実があるように、こちらにもこちらの真実がある。

旅もまた同様だ。この城を留守にさせた将軍達と魔王の間にも、絆を強固なものとする“旅”があった。

「…まあ、俺らもやり過ぎたからな。戦いに決着つけるには、昔から率いたやつの首って決まってる」
「なに…?」
「お前らが俺を倒してくれれば簡単だったんだ。俺が負けりゃ終わった」

魔王が死んだことを知れば、将軍達は降伏したはずだ。
魔物達は人間の立ち入れぬ地に逃げて、二度と関わらないようにひっそり暮らしただろう。

「けどお前らは、勇者とその仲間は俺に一歩及ばなかった。人間側の切り札が負けたという、その意味がわかるか?」
「…っ…貴様は!」
「どうしたもんかね。普通こういう話は、魔王が負けて終わりだろ? 完全な悪を倒したからこれからは平和だとか…魔王にも理由があった俺達はこの戦いを忘れてはいけないとか…そういう感じになってるはずだよな」

計算違いがあったとすれば、それは自身の強さそれ自体。

「まあ、いいか。俺のせいじゃないし」
「なにをする気だ…!」
「そうさな、とりあえず…」

魔王はにっこり笑った。
その表情に、勇者は思わず息をのむ。

―― 彼の者こそ“魔”そのもの。誰も辿り着けぬ領域の化け物。

「もう一度最初から。また“勇者”が現れるまで、俺は続ける」

狂った笑みを最後に、勇者の意識は消失した。

―― おそらくそれは“物語”としてどこか狂った結末。

【了】














☆…☆…☆

お客さん0であまりにも暇だったバイト中に思い付いて、冒頭だけ手帳に書きなぐり…

勇者のみ死亡。

仲間達はなんとか国まで逃げ帰り、元いた居場所で隠れるような生活を始める。
ただ傭兵だけは(多分死んだ勇者の親友だったりするに違いない)隠れることなく魔物に苦しむ人々を助けに駆けつけたりしていたが、ある日絶体絶命の状況に陥り、死を覚悟する。
ところが傭兵は間一髪のところで巡礼者に助けられる。やたら型破りな巡礼者は罪人の代理で各地を巡っているらしく、なんか妙に強かった。
結局傭兵は巡礼者と旅をすることになり、旅の中で昔みたく魔物退治やら人助けやらをし、いつの間にか仲間も増えていった。
ある日偶然魔王と遭遇、因縁が仲間にバレた上に戦闘開始。しかし魔王が一撃必殺を巡礼者が相殺。巡礼者は魔法が効かない体質だった。
今日のところはと去っていく魔王。去り際に巡礼者に対して「お前が新しい“勇者”だ」とか言う。
あれよあれよという間にそれを知った賢王に討伐を請われ、あれよあれよという間に魔王城へ。「俺を倒せるかな」という問いに対し「巡礼者が殺生できるわけないだろーが」と返答。
魔王が放った石化の呪文を弾き返し魔王を石に。
かくして魔物達は人間のいない地へと去り、世界は平和になった。石になった魔王は氷漬けの上に封印、魔力が失われたに等しかったので異常現象もなくなった。
誰も“勇者”が巡礼者だったとは知らず、平和な生活を取り戻す。
巡礼者はそんな世界を楽しみつつ巡礼を再開…傭兵はそれを見送り、自分も歩き出す。


的なとこまで一応考えましたが、続編で書く予定ないです。ちなみに巡礼者だけ結構前から設定あります。吟遊詩人とか傭兵とか巡礼者とか、移動の多いとこが大好きです。

それにしても捕捉長い…。

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あきゅろす。
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