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excuse:




「山口さ、誰かにチョコあげないの」





突然。





隣の席から声がかかる。




「べっつに」




何なんだいきなり。


素っ気なく返事をしたら、




「なんだよ別にって。
あげる奴いんの?手づくりとかしない訳?」



としつこく聞き返された。



…イライラする。




「うっさい。だまれ。あんたに関係ない」




はっきりと句切るようにそう言ってやると、隣の席の男、森長はおーこわ、と言って肩をすくめた。





「──へぇ。面白そうな話してんじゃん」



「おー、木下」



そこへ、友達の木下 ユキが、綺麗な髪をそよがせながら歩いてきた。



「おはよー森長、春も。…なになに、明後日の話?」



「そー。あ、木下は誰かにあげんの?」



「なぁに。あんたチョコたかってんの?」



まあ、余ったらついでにあげても良いよ。

そう、自然に言えるユキが羨ましくてならなかった。


私を取り残してどんどん進む会話に付いていけない。




二人は部活が一緒。だから、もちろん帰る時間も一緒。

そのうえ、家のある方向も同じだからよく二人で帰ったりもするらしい。




うらやましい、と思った。二人が。…ううん、ユキが。




「あ、春ーあんたは作んないの?」


「いや、あたしは」




いきなり話を振られたので、思考がついていかない。



本当は渡したい、と思う。



でも、隣の席のコイツはきっとユキからのチョコを待ってる。



知ってて渡すなんて愚かな真似はしたくなかった。




「──まあ実際、春が作っても不味そーだよね」


「…そうだな、山口不器用っぽいし」




なっ…。




かちん。




頭のなかで、そう音が聴こえた気がした。



「…なんだって?」



腹の底から低い声を出す。



「えーだってぇ、あんたお菓子はおろか、料理さえまともに作ったこと無いんじゃない?
こりゃ、食べる方にも覚悟が要るわ」



まるで馬鹿にされているかのように、ケラケラと笑われた。




──爆発。





「──っあんた達、私の手料理食ったことあんのか!食べたことも無いくせに勝手な想像してんじゃねーよ!!」



「へぇ…、じゃあ作ってみればぁ?もし万が一にでも美味しかったら、その時は謝ってあげる」



そう言って挑発するユキの目は何かを企んでいるかのように細められていたけど、


私はもう頭に血が上って、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。



「っ上等!…覚悟してな…あんた達が泣いて地面にひれ伏すくらい美味しいモン作ってきてやるっっ」



そう啖呵をきった勢いに任せて教室を飛び出した───向かう先は、レシピの宝庫、図書室。



まだ授業があったけど、そんなのプライドと比べたらちっぽけなもんだ。




必ず美味しいモノをつくって。…アイツに、渡して。




これで口実ができた。





──────────────────





「あーあ、相変わらず沸点低いんだから。

…ま。これで春のチョコはあんたとアタシの物よ。良かったわねー森長」



「は」



「なぁに、バレてないとでも思ったの?

言っとくけどねー、本人以外には筒抜けだからねあんたのキモチ。
見ててかゆいくらい」


「…まじっすか…」



「あ、お返し期待してるからー」



「…はい…了解です…」


excuse:

(お礼は三倍返しでね)


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あきゅろす。
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