こねことおおかみ/完結
3
・・・
「へぇ、廊下でぶつかって、それで一緒に来たのか」
「まぁそんなとこです」
武下は手元の書類をパラパラめくりながら、馨の話を簡潔にまとめる。
「お前が涼宮凛で間違いないな」
突然話しかけられた凛は
武下から隠れるように体半分馨に隠れつつも、しっかりと頷く。
「だいたいなんでこんなに遅かったんだ?8時半に来るよう連絡があっただろう。
さては本当に迷子になってたのか?」
「んな訳ねぇか」と冗談半分で笑い飛ばそうとしていた武下は、それにも頷いた凛にやんわりと言葉を濁す。
「まぁ…ここは広いからそんなこともあるだろう。俺はお前の担任の武下だ。何かあったら遠慮なく田原に言え」
「って俺かよ!」
担任の変わらぬ傍若無人さに、馨は最近ツッコミ疲れが激しいような気さえする。
「いいんだけどさぁ…えっと俺は田原馨。同じクラスだしよろしくな涼宮」
馨は少し身をよじり、凛に向かって手を差し出す。
それまで武下と馨の軽快な会話を黙って眺めていた凛も、ここにきてやっと言葉を発した。
「…よろしくね、馨ちゃん」
そして差し出された手を見事に無視し
ぎゅっと馨に抱きついた。
「えっ…か、馨ちゃんて…」
呼ばれたあだ名はあまりに可愛らしく、女の子を思わせるようなそれに少しだけ不満を抱いた馨だったが、
出会ってからのこの短い間でも、凛の不思議な雰囲気とその天然さに慣れてしまっていたため、
「まぁいいか」と未だ抱きつく凛をそのままに自分より少し低い位置にある頭を撫でてしまう。
・・
凛もまた、自分の中で「いい人」に分類した馨にすっかり心を許していた。
そして初めて友達が出来た嬉しさに、珍しく上機嫌でもあったのだった。
・・・
「こいつら両方とも危ねぇな……」
160cmそこそこの馨に、それよりさらに小さな凛が抱きつく様子は
本人達の知らぬうちに職員室全体を和ませていたが
二人の貞操を本気で心配する武下だった。
▽▽▽▽▽
「静かにしろー」
がやがやと騒がしいのは、1−C教室のいつもの光景だ。
始業時間を大幅に遅れて現れた担任の姿に「タケちゃんおそーい」とあちこちから声がかかる。
そこまではいつもと変わらぬ日常だった。
武下の後ろからなにやら小さな生き物がぽてぽてと出てくるまでは。
覚束ない気さえする足取りに、自然と教室から喧騒が消えていく。
「タケちゃん…その子なに迷子?」
「小さくね…」
「え、隠し子?・・・タケちゃんそりゃまずいでしょー」
「違ぇよ!あー…今日からこのクラスに加わる転入生だ。
親の都合で…まぁとにかく、仲良くしてやれ」
説明端折ったな…と、クラス全員が察知した。
「ほら、自己紹介でもしろ」
ぽんと武下に背を押され、凛はおずおずと顔を上げた。
「・・・・涼宮凛です。・・・・よろしく」
<*わんにゃん#>
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