こねことおおかみ/完結
わくわくな家路
「むーくん、あれ食べたい」
「だめだ」
「・・・・・むん」
寮から出て小一時間。目に止まる全てのものに眼を奪われる凛の手を引いて宗昭は駅へと進む。
おねだり攻撃が通じず、拗ね顔の凛は宗昭の手をぷらぷらと揺らしてその不満を訴える。
「母さんが待ってるんだろ」と凛を諭す宗昭は、実は30分前に1回目のおねだり攻撃に負けてクレープを買い与えていたりする。
「むーくん、あとどれくらい?」
「まだ2時間は電車の中だ」
「ほー、遠いねぇ」
大晦日ともあって電車はひどく混み合っていた。
が、凛と宗昭はグリーン席だったので無理なく乗り込むことができた。というのも、初めからこちらの行動が分かっていたというか決定事項だったのか、手紙と言う名の勧告書には電車のチケットが2枚同封されていたのである。
グリーン席というあたりが凛への溺愛っぷりが伺える。
「みゃーこさん、もう少し我慢しててね」
「にゃん」
凛はバッグの中の都を労わるように話しかける。
バッグに入ることに慣れているのか、網目から見える都はいつもと変わらない様子であった。
ペットを飼ったことのない宗昭は動物が電車に乗っていいのかすら知らなかったが、都のバッグは凛ママお手製で名前入り。凛は自分の荷造りより先に都の荷造りを済ませていた。
今までも都はどこに行くにも一緒だったのだろう。
居心地のよさそうなバッグごと都を抱きしめる凛を眺めながら、宗昭はそんなことを考えていた。
そして凛の家へ帰っているのにも関わらず自分が先導しているあたり、凛が一人で実家へ帰るという選択肢なんて初めから存在していなかったのではないかということも。
<*わんにゃん#>
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