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こねことおおかみ/完結
こねことおおかみ


五月晴れの気持ちのいい朝のこと
彼は一匹の親友を連れて、とある学校の裏門をくぐった。


「いい天気だねぇみゃーこさん」

「にゃぁ」

人気のない裏門から先は、
サラサラと優しい葉の音のする林だけが彼らを案内しているように続いており
迷い込んだ木漏れ日に誘われるように足を進める

行き着いた先はふわふわと柔らかい芝生の絨毯だった。
周りを囲む木々に守られるようなその場所へ誘われるように
制服が汚れることなど気にもしない凛はごろりと横になる。

彼の忠実な親友も、主人の真似をして伸びをひとつ、その身に寄り添う

「んぅ…気持ちよくて眠くなっちゃうね…」


ゴロゴロ喉をならす声を子守唄に半ば夢の世界に飛びつつ、
凛は落ち着きのいい寝床を探していた


その瞬間

ガサリと草を分けるような音が静寂を破る

ぴくりとすぐさま反応したのは、凛の親友であり愛猫の都だった。
「みゃーこさん?」
心地よい眠りのために抱きしめていた都の身が硬くなったことに、凛も眠たい目を擦る。

何かを警戒するような都の仕草に、動物が大好きな凛は「リスがいるのかな」なんて内心わくわくしながらちらりとそちらへ視線を向ける。


「……」

「………?」



現れたのは、期待していた動物ではなかった。

がっかりした凛はリスを諦めて再び眠りにつくことに決めた
「ふわぁ」とあくびをひとつ、ぬくぬくと暖かいそよ風に包まれるように、体を丸めて横たわる。




「……おい」



閉じた瞼先、木漏れ日を遮るように頭上に突然影が差したことが分かった。
掛けられたのは低いけれどよく通る芯のある声
都を抱えたまま、凛はそっと目を開く。


「……」

凛を丸ごと覆ってしまうような大きな影
その正体はこちらを見下ろしている一人の男だった。

芝生にころりと転がったまま、凛はその男をじっと見つめる。



凛々しい眉、すっと伸びた鼻筋
野生動物を思わせるような鋭い眼は右と左で色が異なっている

「わぁ…」

高校男児の平均を軽く超えるであろう長身は
成長お悩み中150cmのミニマム凛が横たわりながら見上げているせいで、より大きく感じる







無言で見上げてくる小さな男の子を、相手もまた同じようにじっと観察していた。

なんだこの小さな生き物は
と、思わず動くことを忘れてしまう。

小柄な体で猫を抱き込みながら横たわり
大きな目はこちらに向けられたままだ。

そしてその少年は驚くことに、自分と同じ制服を着ている。


こいつ、…これで高校生なのか





男にそんなことを思われているともつゆ知らず

凛は屈みこんだ男の頭上で揺れる、ふわふわの髪の毛に夢中になっていた。


ふわふわで
不思議な灰色をしているそれは
日差しを受けてキラキラと銀色に輝いて
凛の瞳に焼きついた


「……わんちゃん」

「……っ」

ふにゃりと柔らかい笑顔がこぼれたのを、男だけが見ていた。
凛は先ほどとは別の理由で動けずにいる男の頭に手を伸ばし

わしゃわしゃと両手で思う存分撫で回す。

「ふわふわ…」



・・・


その時

男 こと、柚羅宗昭(むねあき)は
少年の口から発せられた謎の発言「わんちゃん」と
破壊力抜群の笑顔に

完全に全意識を持っていかれていた。




・・・




大きな体で、わんちゃんよりおおかみさんみたいだなぁ・・・と、
男が嫌がらないことをいいことに
わしわし撫で続ける凛はのんきにそんなことを考えていた。


そんな中凛はふと思う。
そういえば僕はここで何してたんだっけ・・・

みゃーこさんとお昼寝しようとしてて

この狼さんが来て・・・

僕の瞳とおそろいの、灰色の髪の毛がわふわふで…


それで・・・

ここはどこだっけ・・・・・




「そうだった」





凛はやっと、本日の目的を思い出しだのだ。


「……ふぅ」


思い出したと同時に、めんどくさいなと思い始めていた凛だが仕方がない。
撫でたりないふわふわは名残惜しいが、手を離しもぞもぞと立ち上がる。



「ばいばい、おおかみさん…」


未だ固まる宗昭の頭を最後にひと撫でし

凛はその場を立ち去ったのだった





にゃん#>

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あきゅろす。
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