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こねことおおかみ/完結


宗昭は冷たいミネラルウォーターを飲みながら、リビングの隅で同じように水を飲む猫を眺める。
使ってない皿に水道水。小さな舌が器用に動くたび、溢れた水が弾けて落ちる

最初に用意した牛乳はちらりと視線を寄越しただけで口をつけず、キッチンで行き場を無くしたまま放置されている。


ソファに座ると、吸い込まれるようにずしりと体が重くなる感覚がする。
ここの所、亮平に連れられて寮を抜け出しては朝帰りの連続で、睡眠不足だった。
今日あの林に行ったのも、誰にも邪魔されない場所で昼寝でもするかと思ってのことだった。
実際は不思議な出会いがあった上に、亮平に簡単に見つかってしまったのだが。



小さく動いて止まった気配に視線を戻せば、水を飲んで満足したのか都はその場に丸くなっている。

宗昭もまた、ソファにどかりと横になって眼を閉じる。
やっぱり疲れてるなと、ぼんやり思っているうちに思考は闇へ飲まれてしまった







▽▽▽▽▽


突然のことに宗昭は混乱しながらも
今、自分が置かれた状況を理解しようと必死だった。


あのままソファで眠ってしまったことは、周りの状況から予測するのは容易い。

しかし分からないことがただ一つ。
横たわる自分の腹に重なる確かな重さは猫だというにはいささか重すぎる。

「どうして俺の上で寝てる…」

・・

同室の男に寝込みを襲われかけたことは記憶に新しいが、
それを上回る混乱が宗昭を悩ませる。

起きた時に、自分の上で人間が眠っている。
そんな状況は彼の人生において、いや誰の人生においても
大きな動揺をもたらす、あり得ないできごとだろう。


「……」

動揺し過ぎて、いつもはすぐに動く拳も出るタイミングを失ったまま。
どうすればいいのか分からず、自分の胸に頬をあてぐっすり眠る少年を宗昭は観察してしまう。
小さな口は半開きで、今日見たばかりのぱっちりとした眼は今は閉じている。
長いまつげがそれを隠し、白い頬は柔らかく宗昭の胸に熱を伝える。

よくよく見ると、彼の手は宗昭のシャツをぎゅっと握りしめていた。
既にしわになっているそれを見て、なぜか笑いが溢れる。


「あー…予測できねぇな…こいつは」


気持ちよさそうに眠る少年を起こす気にはなれなかった。


他人と触れ合うことは苦手なのだが、状況を一度受け入れてしまえば、感じるのは嫌悪感ではなかった。
とくとくと暖かい他人の心臓の音が、感じたことのない安堵感のようなものをもたらす。
自然と少年を受け入れていることに自覚のないまま、宗昭は少年の小さな体を抱きこむようにまた瞼を閉じることにした。



<*わんにゃん#>

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