メフィスト
きらきら
「私、そんな余裕持てなかった」
 なぜか、綺羅はややトゲがある言い方だった。長机が6つおかれた部屋に入り、一番右端にあるひとつの椅子に座り、彼女は言う。

「こんなに辛いのに、
なんでわかってくれないのってことしか考えなかったし。わかってくれる人も居るかもしれないなんて、思えなかった」

「そうか」

あまりの勢いにたじたじになりながら俺は答える。やばい、怒られるかとよくわからないけれど身構えた。
彼女は少し目を押さえた。
な、泣かせっ……!
焦っていると声。

「なんだ。立ち上がれた人って、何も、特別じゃないんだ」

諦めたような、安心したような声音だ。

「私よりも、周りを、見ているってだけ」

「おう……」

前にテレビで見た特集だと、嫌がらせはあったけど他の場所に友達が居たという話は多いらしい。
挫ける前に居場所があることが、彼らが閉じ籠らずにいられた理由だと言われていた。
俺だってそうだった。

案外、『ここしかない』『拠り所は他にない』 という気持ち自体のほうが一番の厄介なものだということを、ノートを奪われて知った。
それほどのものだった。

「そか。そんな人を、私、コネだとか実力があるからだとか言って、呪ってたんだね。

まだ出来るかもしれないことも努力しないで」

「気付くだけ、それを苦にいじめるやつよりは成長してる」
「ところで、なんでこんな話になったんだ。 もしかして、河辺がらみかな」
急に真面目な顔をして綺羅が言う。
その通りだった。

「確かに、クラスでの印象はよくないよ。
乱暴だし、奇声をあげるし、ちょっとよくわからない俺様感を出してくるから」

「まあ、他人の痛みには、鈍い感じがするな」

俺は濁しながら言う。
綺羅の近く、すぐ斜め後ろの席に座って鞄をドサッと投げるように置いた。

「寄り添ってあげられる人がいたらいいけど、精神が未熟な相手に構えるほど、成熟したクラスメイトはそう居らんわよね」

「ですよね」

 思いきった俺は、

俺が唯一心の拠り所だった場所に彼が居ついたこと、俺様感を出してそこから動こうとしないことを話した。

「もしかして、最近それで元気なかった?」

と、彼女は言う。気付いてたのか。

「うん。まあ。
強引に自分の場所にされてしまったから。
俺行くとこがなくなったんだ。
人生のほとんどだったのに」「なにそれ、ひっどい! なんでそこを奪うようなこと」

「なんか知らないけどあいつが、俺も孤立していると勘違いしてきて、
一方的に仲間だと思い込んでたことが原因なんだ。
同類だから仲良くしたいって。

たぶん孤立してたぶん寂しさもあって思い込みが強まっているんだと思う。

家とか勝手に調べてやってき」

ここまで言う必要はなかった、と途中でハッと気がついた。

「え、家まで、来たの」

綺羅が引いた顔をする。
「頼む、これはクラスのやつとかにいわないでくれ」
せっかく、その補填をすべく付き合っているのに、台無しになってしまうから俺は焦った。

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