メフィスト
血
少しラグがあってからじわっと、下手な裁縫の波縫いみたいに不規則な血の塊がにじんできた。
「切ったらこうなるんだ」
なんだか他人事みたいに感じる。
さっきのは浅かったからあまり綺麗に血は出なくて、ただ不格好に怪我をしたって感じ。
じわじわと、ひとつずつ赤い花みたいに皮膚に咲いていく血のラインに、きれいだなと感じたけれど、同時になんだか、このままじゃエスカレートしそうだ。
なんたって征服欲が満たされる。
俺をこんなにしているのは俺自身なんだと、証明してる気分。
決して河辺とかカンベとか、あと知らない作家や芸人じゃない。
他人にあんなに生活に入り込まれたことが無かったからか、まず、見ず知らずのやつが俺の邪魔をしたということが悔しくて。気がついたら、少しずつ傷を深くつけていた。
気分がすっきりして、その日はノートじゃなくて、止血にいそしんで終わった。 ハァ、ハァッ、
荒い息が聞こえて目をさました。自分のものだ。こんな呼吸では到底眠れないだろう。
血が少しだけ気分を沈めてくれて一時的に落ち着いたから眠れたけれど、本当に一時的だったらしくてすぐに効果は切れるし、突然、動悸と不安感が襲いかかってきた。
落ち着くためにと、携帯を開いたら姉からメールが来ていた。
「父さんが、『お前の小説ドラマ化おめでとう』だって」
……は?
まって意味がわからない。携帯を落としそうになった。
沢山の情報が一気に来た。まずは、姉と父が俺をカンベだと思ってること。それに、ドラマ化? 知らない。なにそれ。
そして逃げたはずの父が、ぱっと現れたかと思えば姉と交流してる?
とりあえず寝てしまおう。そんで夢の中で遊園地かなんかに行くんだ。
そうしよう。
……目を閉じても、周囲の物音がやけに耳につくだけで、いつもの自分の部屋のはずなのに無機質な知らない空間に感じてきて、俺は叫んだ。
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