メフィスト
急変
「ひゃっほーう、海だ海ー」
「もー、うるさすぎ」
階段になってる石畳をかけ降りていると、横から綺羅が苦笑いしていていた。なっちゃんはクスクス笑っている。
空にとんびが飛んでいて、俺らを見はるようだった。砂浜に行くと言うと綺羅も行くと言ってさらに四人の女子、三人の男子もいる。
なんでこんな人数かというと、所属してる美術部での製作に使うための材料を集めに行くと、うっかり綺羅に語ったからだ。
なっちゃんと砂浜を歩くのがあまりに嬉しくて。
「いやー、部活の学年メンバーがそろっちゃったね」
綺羅がうふふふと笑いながら言った。
二人きりにはなれなかったが、これはこれで楽しみかもしれない。
持ってきたビニール袋を手に、俺らは階段を降りていった。
砂に混じっている貝殻たちをひとつずつ、眺めたり、集めた。
「お、なにこれ、アンモナイト?」
岩場の近くで、俺はぐるぐる巻いてある白い貝を見つけた。
「それはタコブネだよ」
みんな散り散りになっているなかで、同じ方向に来ていたなっちゃんが、面白そうに笑っていた。
「タコだけど、貝があるんだ。珍しいんだよ」
ずきん、とその笑顔に胸が痛んだ。
「こういうの、好きなのか」
貝を掲げながら聞いてみる。
「あぁ。好き」
ずき、ずき、と、心がやけに重たく感じてくる。 桜貝とかあればよかったけど、俺はなかなかみつけることが出来なかった。
烏貝は沢山あった。
泥のなかにすんでいるらしいけれど、今は干上がった場所にばらばらと放置されている。
後ろの浅い砂浜の方では「あ、ニイナだ」誰かが言って、ほんとだーと声があがっていた。
「おいおい君ら、食事に来たのか?」
ポニーテールを揺らしながら勇ましくシャベルを片手にした時期部長が、腰に手を当ててはははっと笑っているのも見える。
女子だが、日に照らされた横顔はなんだかいさましい勇者の風格がある。
「いいじゃないですか、ゆでましょうよ!」
綺羅がはしゃいでいる。俺は相変わらずだなと思いながらなっちゃんを見た。
「あ、そうだよな、ごめん、巻き込んで」
なっちゃんは帰宅部だ。なんだか気を遣わせてしまった。
「いや、なんか、楽しいな」
フフフ、となっちゃんは笑った。なっちゃん。
もっと笑って欲しい。
俺は高鳴る鼓動をどうにかこらえながら、そりゃよかったと答えた。
そのとき……
「あああああああー!」
寄声が聞こえた。
ぎょっとしてふりかえったらそこには制服姿の河辺がいて、こちらに走ってくる。
「あいつ、河辺」
のんきになっちゃんが教えてくれた。
「知ってる」
やばいかな、と他人事みたいに考えていたら、そいつがあっという間になっちゃんにつかみかかっていた。
「っ前! お前なにしてくれてるんだ」
とても怒った様子だった。なっちゃんがうろたえる。
「え、あ、えっと。河辺サン?」
[次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!