2019.8.20 16:54

(恐らくは主従契約がねじ曲がったことで……)
 ルチアノは静かに考えた。
その本のもと、となったのが恐らく、天地の祈りの一部だったのだろう。

「うわああ! うわあああああああっ!」

男が悲鳴をあげる。本が、手を伸ばして彼を捕まえる。

「手!?」

はじめて見た。
本が、まるで生き物のように……
まずい!
ルチアノが焦っているうちに、本はみるみる歪み、人の形そのものになっていく。
もはや文学というよりも、娯楽や知識というよりも、いや、本ですらない。
『所有者』の姿にしか見えない。
なのに黒ずんだ、邪悪なモノ。

「貴方!」


むしゃ、むしゃ、むしゃ。

(本が人を、喰らった……)


「イケクロス……あなた」

男の名前を呼ぶ。
もう帰って来ない。

ハアアア、と煙幕のような息が吐かれ、慌てて顔を覆う。
「ぐっ……」

息を堪えながら、彼女は背中にあった剣を手にして、振り払う。
「い、イケクロス!! イケクロス!」


背後を気にしてみた。二人、が気付いている様子はない。
恐らく体育館に向かっただろう。

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あきゅろす。
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