2019.10/11.11:40

 暁兎――
由来は知らないけれど、いつからかそんな二つ名が付くようになった。


誰も居なくなった校舎のなかで彼女はにやっと笑い教室へと侵入する。クローンである彼女は自らの皮膚に躊躇わず、純血の血液を『埋め込み』さらに薬を飲んでまでこの純血の教室に出向いた。長くは持たない、わかっている。

 けれど、そうしてまで手に入れたいものもあるのだ。

「ヴァルナちゃん、ハァハァ!!」
ツルナルールの匂いがする、気がする教室で歓喜の声を挙げる。
「ソフィーちゃんのにおいもする……」

右目に眼帯、深緑色のワンピースを着た彼女はクローンを、純血に成り代わらせる方法を信じていて、それは、昔の人が悪い部分があると動物のその部分を食べたように――

「あなたはツルナじゃなく、ヴァ・ル・ナ! んきゃははー!」

自らを、アイデンティティをなくして身体をそっくりに寄せていくこと。真似していくこと。
「リサウザー、けど、君はリサウザーじゃなくなっちゃうよ?」

手に抱えているカエルチャンが不安そうに聞いてくる。

「慣れてしまえば、そんなの同じ。リサウザーミュッキだった頃の記憶は、いつでも捨てられる!」

(バカだな、血は残る。薬も無いと、君は偽れないのに……)
カエルチャンは冷静に状況を判断して思った。
リサウザーから聞いた話じゃ、彼女がリサウザーで居続けることがそんなにも嫌いなのは、彼女は両親に愛されなかったからだ。
そんな可哀想な自分が、可哀想でならなかった。だから、他人になってしまう術を人より探し求めている。
そして誰よりも愛されたい。




1/1ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!