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だから。

『今』まで待ったのに。
なのに。

まって!
私は、彼女が今から持ち去ろうとしている封筒へと縛られて届かない手を伸ばした。

「それは、その本は、お姉ちゃんの遺品なの……! せめて、置いて行って」

マイ、は笑顔で告げる。
「あ。タカナの名前を書いちゃった☆」

消せないインクペンで、皮表紙には、深々とその名が刻まれた。

「――――っ!」

名が刻まれると、
『お姉ちゃん』が、本からはみるみるうちに消えてしまう。

「返してあげようか。もう名前書いたし」

ぴらぴらと揺らして見せられたそれは『効力』をなくした、ただの本になっていた。
『お姉ちゃん』は、居なかった。死んでいるのに『本』からも、上書きされた。
もう、居ない。


「タカナ、なにか言ってやりなさい」

「ずっとそれ羨ましかったんだよ!
やっぱ、楽するに限るな。この『本』があれば、俺はひもみたいなもんだ」
私、はぼんやりと、現実を把握しようとした。

「まあ、お前は他の契約を探せ」

それは、ならないことだった。
『この本』でなければ、だめなのだ。
私でなければ、いけないのだ。
その血を含めてある。
私にしか馴染まないのだ。

「勝手に書き換えたりして。
どんな暴走を、起こしても知らないわよ」

「負け惜しみ?」

マイがにやにやと笑った。

――彼女たちは知らなかった。
この契約者を曲げる行為が後に、死者を生む呪いを司ること。





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あきゅろす。
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