ページ:6
その“何か”が何たるかを、この目の前の人間は見破ったのだろう。
「教えてあげようか、君の悩みの答えを」
白の手袋に覆われた右手に肩を軽く押されて、その体重をかけられれば、ナマエは背後にあった壁に背中を貼り付けた。耳元に感じた息遣いに、思わず首をすくめる。
逃げられない逃げられるはずもない、この人間から。おそらく彼は、良くも悪くも私の理解者だから。
「恐がる事はない。何故なら我々が何よりも正しいのだから」
そして、その“何か”が何たるかを君が理解したならば、それを境に
「君は我々の同志となる」
「な、に…ッ」
耳を塞ぎたくなるような思いに、ナマエはギュッと目を瞑る。
分からなくていい、今は分からなくていいから
だから、
やめて、やめて
今の私を変えないで
私が変わってしまう、私が私でなくなってしまう
お願い、お願いだから、これ以上
私の居場所を奪わないで
「ラザード統括、それってセクハラじゃねぇの」
久しく聞いた、懐かしい声音。
刹那、視界が大きく揺れた。
心臓が止まるんじゃないかと思えるくらいにナマエは驚き、目を見開いた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!