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それは体力とか肉体的にどうこうという問題ではなく、
彼女の気持ちを動かすことの出来る能力の話であって。
此方を振り向いたナマエの瞳に睨まれて、
肝が冷えてしまった自分にはそれは不可能であると、悔しいかな本能で悟ってしまった。
「レノ…」
その瞳は酷く濁ってしまい、真っ青できれいだった空色がまるで曇り空のような灰色に見えた。
レノは努めて冷静に、ナマエのほうへ確実に一歩を進める。
いくら本能が不可能と叫んでいたとしても、素直に引き下がるほど臆病な人間でもなかった。
「何すんげぇ散歩しちまってんだよ、皆が心配するだろうが」
「みんな…?」
「?…あぁ」
不審がるようにそう繰り返せば、ナマエはクスクスと笑い出した。
いつものナマエではない、そうレノは直感した。
「…何が可笑しい?」
「みんな、か…みんなって、誰のこと?」
「…何言ってるか、意味わかんねえぞ、と」
クスクスと、尚も笑い続けるナマエ。レノは眉をひそめてその先の言葉を待つ。
ひとしきり笑い、ナマエは大きく息をつく。
そして、途端に表情をなくしたのだ。
「私のことなんて、誰も心配してるわけないよ」
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