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驚きに見開かれたナマエの瞳は暗闇でも分かる程に綺麗な空色で。次第にとろんと潤み始めたそれを、ザックスは魅入られたように見つめながらキスを更に更に深くする。
舌先を絡めとられ口内を蹂躙し、上顎を撫でられればナマエは抵抗をなくす。
漸く唇を離した時にはナマエは息が上がり、トサッとザックスの胸板に頬を落とした。
「せっかく、やりかえしたのに」
「ざーんねん」
む、とナマエが頬をむくらせたのが分かり、ザックスは苦笑する。その肩に腕を回して抱き締めてやれば、ふしゅうとその頬から空気が抜けたようだ。
この屈託のない穏やかな空間が心地よく、一時の静けさが訪れる。
暫くして、ザックスが漸く眠気を感じてきた頃、腕の中でくぐもったナマエの声が響いた。
「ていうか、」
「ん?」
「なんで穴開けたの?」
「え、今更?」
ナマエはやっと疑問に思ったらしく、恐々と左の耳朶に手をやる。留め具を軽く捻れば、微かな痛みが走った。
あんまりいじるなよ、とザックスはその手を掴みギュッと手を握る。
「前に、お前から預かった金があっただろ」
「前って…あの、電車賃?」
「そう」
『それで私に何か買ってちょうだい』
そんな記憶が、脳裏をよぎる。
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