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一人は嫌い、独りは恐い、そればかりだったナマエであるはずなのに。
麻痺してしまったとでも言うのだろうか…
そうだとしたにしても、それならば、このあまりにも穏やかな心地はどう説明出来るのだろう。
まるで、そこだけ剥がれ落ちたかのような心の軽さ。
ぽつり、唇から零れた音は。
「…ザックス、」
貴方は私に、何をした?
『彼が、僕等の恐怖を取り払ったんだ』
心の奥底、悲しげな声が響いた。
知らないはずなのに、懐かしい。その寂しそうな声は。
君は、誰だったか
思い出せない…
「なぁ、」
「まだよ」
「…なぁ、」
「当分は無理だから諦めることね」
「…はぁ、」
「しつこい男は嫌われるわ」
社内のカフェテリア、昼時には早いために客はまだ数えるばかりしかいない。カランと涼しげに鳴るグラスの中の氷を転がし、シスネは先程から目の前で机に突っ伏す青年の後頭部を見下ろしていた。
これが本当に数日前、暴走したナマエを連れ戻した人間と同一人物かどうか疑わしくなるほどのしおれっぷりである。
シスネは呆れ調子に、先刻から繰り返される溜め息と呟きに付き合ってやっていた。
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