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先程から、彼女の言葉の節々にある妙なひっかかり。
度々ナマエが口にする言葉…それに嫌な胸騒ぎを覚えて、ザックスは歩み去ろうとする背中に投げかけた。
「だから…帰る場所がないとか、戻れないとか、さっきから何なんだよ!」
ピタリ、
ナマエは足を止めて、しかし此方を振り向かずに一言。
「必要ないんだもの」
暫く、沈黙が流れる。
ナマエは、震える瞼を薄く閉じ、自嘲気味に笑う。
見出だされた彼女本来の思いが、その心をまた蝕み始めた。
それは先ほどまでの怒りや憎しみ等という憎悪とはまた異質な…闇である。
「私は、もういらないんだよ」
“いらない”
その言葉からは、全てを残酷に切り捨てる嫌な響きを感じる。
「どういう、意味だよ」
「私が此処にいる理由はもうない…」
問い掛けをすればするほどに、疑問は増える。
まるで核心に触れない返答…先の読めない話に、ザックスは眉根を寄せた。
「お前の言う理由って、なんだよ」
ナマエは、温度を感じさせない鉄板である天井を見上げる。光沢のない掠れた鈍色は無感情で、まるで他人事のように見下ろすばかりだ。
「私が此処に来た理由は…兄さんやアンジールと一緒にいたかったから」
二人に追いつきたかった、いつだって二人は先に行ってしまうから
だからソルジャーになった
そんな単純で稚拙な願いが、私の唯一の願いであった
「だけど、二人が神羅を抜けてからは…それが少し変わっていった」
二人を失った私は正直なところ、
この場所というものに価値を見いだせなくなった
だって二人がいないなら、私が此処にいる理由なんてないじゃないか
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