[携帯モード] [URL送信]
*




カンセルの言葉が頭をよぎった。

“涙さえ、流さずに”



私が泣かなかったのは、
泣けなかったわけじゃない

知らないうちに、
泣く場所を、決めていたんだ


「そっか…だからか」


ザックスと一緒に、泣きたかった





ザッ…
濡れた地面をこする足音。
それは背後で立ち止まった。
淡い期待が胸を浮かす。
しかし、それはまたもとの位置まで沈む。
振り向いたそこには、真っ黒なスーツを着た、赤髪の青年が立っていた。
彼も自分のように傘はさしておらず、多少息が上がっている様子で肩を上下させている。
何も言わずに、じっとそれを見つめていれば、彼は口を開いた。

「何してんだ、傘もささないで」

自分だってそうじゃないか
人のこと言えないだろうに。
そこまで口に出す気力もなく、視線を外した。

「風邪ひいちまうぞ、と」

ポンと、濡れた髪をしっとりと撫でられる


ねぇ、お願い
そんなに優しくしないで


[*前へ][次へ#]

13/16ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!