* やっぱり、来なければ良かった 教会の玄関の階段を登りきって、後悔が押し寄せる。 瞬間、胸がつまった。 目の前の出来事に、頭が痛くなった。 嘘、なんて呟く気も失せるくらい明白な事実を突きつけられたようで。 扉の向こう側で 彼女は彼を抱きしめ、彼は彼女に背中を預けて泣いている 綺麗すぎる光景、 悲しみの中に、優しさや慈愛を醸し出す世界 しかし、今の自分にはあまりにも不必要で 胸の痛みで心が悲鳴をあげていた。 私の前では泣くことすらなかった彼が 彼女の前で泣いている 何かに突き飛ばされたような、衝撃。 しかし、麻痺する思考の中で冷静な自分もいた。 いつも、そうだ 私はいつも、彼に何もしてあげられなかった どんなに彼が苦しんでいても、何も言葉をかけてやれない そんな私を、彼が必要とするわけがない 私に彼が必要でも、 彼に私が必要とは限らないのだ 扉にかけた手をソッと外す。 ナマエは来た道をゆっくり戻った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |