トリアタマ
「痛っ…!」
痛みを感じた足の裏を見ると、どうやらガラスの破片を踏んづけてしまったようで
そこから血がにじみ出て靴下を赤色に汚していた。
靴下を脱いで傷口を確かめてみると、大して切れてもいないのに大げさに血が流れ出ていた。
破片を全部片付けたと思っていたのに。
何より悲しいのはその踏んづけてしまった破片が、ファルコからもらったコップだったってことだ。
そして、ファルコとの喧嘩で割れたコップでもある。
「救急箱どこだったかな」
何で喧嘩をしたのか今になってはもう覚えていない。
いつものことだ、どうせくだらない理由に決まっている。
「救急箱ファルコのところだ…」
任務の度にムチャして生傷をたくさん作ってくるファルコの手当てをするために
毎回持って行くのは面倒なので救急箱はファルコの部屋に置きっぱなしだった。
ファルコと顔を合わせるのは非常に気まずい状態なのに…。
「まだ怒ってるかな、ファルコのやつ」
何で喧嘩したんだっけ。
何で気まずくなるって分かっていても喧嘩してしまうんだろう。
「バカだな、俺…」
そんなこと考えてる間に傷口から流れ出ていた血はすっかり止まって、ファルコのところに行く口実を失ってしまっていた。
「バカ、バカ…」
ファルコも、俺もバカだ。
「あー…!もう、俺だ!悪いのは俺だ!」
もうダメだ謝りに行こう。
ファルコが足りない、足りなさすぎる!
もう3日もファルコに会っていない!
俺は謝るセリフを考えながら部屋の扉を開けてファルコの部屋まで走り出した。

「っ!!」
つもりでいたのに、
「どこ行くんだ?フォックス」
非常に気まずい関係のファルコに部屋の前で思い切りぶつかってしまっていた。
出口はファルコの手でふさがれていて逃げようにも逃げられない状態だ。
「あ…、」
まだ謝る準備が出来ていないのに、どうしてこうもタイミングが悪いんだ…!
「おい、これ」
「え?」
いきなり手のひらに乗るか乗らないかの小さな箱をファルコから手渡された。
戸惑ってファルコの顔を見ていると
「いいから開けろ」
ファルコに開けるように指示される。
小さな箱は大きさに似合わず少し重みがある。
言われた通りに箱を開けて中を取り出してみると
「これって…」
ファルコとの喧嘩で割れてしまったコップと全く同じコップが入っていた。
「気に入ってたんだろ?」
「ファルコ…」
別にこのコップだったから気に入っていたワケではなくて、ファルコが俺にくれたものだから気に入っていただけだ。
ファルコからコップを貰ったのはかなり前で、それと同じ物を見つけるだなんて相当大変だったと思う。
「よく見つけられたな」
「俺もそう思うぜ」
誉めろ誉めろと自分を指差してファルコが笑う。
ファルコの笑顔を見たのは、本当に久しぶりだ。
「ファルコ、先日は悪いことをした…」
「俺トリアタマだからそんな昔のこと覚えてられねえんだ。だから気にすんなよ、フォックス」
コップごしにファルコが意地悪く笑った。
「コップ、ありがとう!」
「おう!」
その笑顔の方がファルコには悪いけどコップなんかよりもずっと、ずーっと嬉しかったんだ。
そんなこと言ったらお前はどう思うかな。

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あきゅろす。
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