懐かしい風
秋の匂いを乗せた風が耳をくすぐって吹き抜けていった。
たまにすごく懐かしくて切なくなる風が吹く時がある。
それが今吹いた風だ。

―フォックス!―

まるで俺のすぐ隣に昔と変わらずファルコが居るような気配がした。
昔のように肩を並べて、昔のように何気ないことで笑いあって…。
俺の隣にファルコが居なくなってもうどれくらい経つのだろう。
ファルコの声が聞こえたような気がして、立ち止まってしまっていた足を目的もないまま歩ませる。
ファルコは今どうしているんだろう。
最初は続いていたメールのやりとりも、今となってはナウスが月に数回連絡を入れるくらいだ。
「元気にしてるといいが…」
懐かしい風に誘われるように、転がる落ち葉と一緒に色付いた並木道を歩いてみる。
そうだ目的地は落ち葉が辿り着いた場所にしよう。
昔もファルコとこうやって歩いていたよな。
しゃくしゃくと落ち葉を踏む音を楽しんで歩いていると、先導する落ち葉が段差にはまって動けなくなってしまった。
「なんだよ、もう少し一緒に歩いてくれたって良いだろ?」
付き合いの悪い落ち葉に悪態をついて、前進すると地面の色が茶色からオレンジ色に変わっていることに気が付いた。
「あれ、ここって…」
下げていた頭を上げて周りを見渡すと
いつか来たことのある大きな金木犀の近くまでやってきていた。
「懐かしいな、まだあったのか」
時折吹く風に乗って小さな花がオレンジの絨毯を作っていく。
変わりゆく街並みの中で、ここだけは時間の流れが止まってしまったかのようにあの日のままだった。
木の根元まで足跡を残していくと、一部分にだけオレンジの絨毯が出来ていないことに気が付いた。
まるでそこにまだファルコが居るかのような錯覚がしてきた。
あの日と同じように金木犀の木に背中を預けて寝息を立てている。
あの日、俺はファルコに何て話しかけたかな。
「こんなところで寝てたら風邪引くぞ?」
確かこんなセリフだ。
「そうか、バカは風邪引かないもんな」
ファルコが居るような気がするその横にそっと腰をおろすと、あの日と同じように1羽の鳥が寂しく鳴きながら弧を描いて飛んでいった。
「なぁファルコ、少しだけ眠るからお前の目が覚めたら一緒に俺も起こしてくれないか?」
横になると一気に眠気が訪れた。
懐かしい夢が見れることに期待して、俺は目を閉じるのだった。
小さな花は、風が吹く度に俺にオレンジの布団を作っていった。

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あきゅろす。
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