仁王
仁王の手は春夏秋冬いつも冷たい。なんで夏まで冷たいの?と問うてみても「心が優しいから手が冷たいんじゃ」と。なんだかつっこむのも面倒くさいからそのぼけはスルーしてやった。すると仁王はつれんやつやのぅ、なんて言ってブン太に泣きまねをして抱き着いていた。うざっ、仁王うざっ
「おまんの態度が日に日に冷たく感じるんは気のせいかのう」
ぶつぶつと仁王が文句を垂れる帰り道。冷たい手がわたしの温かい手を包みこむ。私たちはいつも手を繋いで帰るのだ。それは付き合い始めてからずっと変わらない。一種の決まり事だった。
「気のせい気のせい〜」
「プリ、あんま冷たくすると浮気するぜよ」
口ではそう言いつつも繋いだ手は離さないでいるあたり仁王は優しい。そこからは浮気なんて絶対しないという気持ちが伝わってくるから。わたしは大事にされてるんだなぁ。だからわたしも自分の出来る誠心誠意彼を大事にしたい。…なんて。
「なぁー俺の手がいつも冷たい本当の理由教えちゃろうか?」
「ん?うん」
「俺の体温って低いん知っとるじゃろ」
「うん、たまに34度とかでるよね。あれには引いた」
「おん、そんでな、俺の体温ってこのままどんどん下がっていくらしいんじゃ」
「ふーん」
「ふーんってお前信じとらんじゃろ」
「え、そんな事ないよーあ、猫!」
「猫はええから最後まで話し聞きんしゃい」
体温は下がり続け、いつしかそれは生命維持が危うくなるところまで行ってしまうらしい。だからその為には睡眠が必要なのだそうだ。ほらあれ、熊が春まで眠るなんだっけ…、あ、そうそう冬眠だ。冬眠と一緒。
「俺の体温はこの先上がることはないんじゃ。だから手もどんどん冷たくなる。きっと来年の冬は病院のベットでずっと眠り続けるんじゃろうなー」
そう言って笑う仁王の目はとても悲しそうでどこか遠くを見つめていた。
(仁王が、病気?)
わたしはなんて言えばいいかわからなくてだんまりしてしまった。だってあまりにも嘘くさくて。彼は確かに最近よく寝てはいたけれど部活にはしっかりでていたし。けれどその仁王の表情はとても嘘をついている様には見えない。二人でだんまり。数分、重たい空気が二人の間に流れた。
「…なぁ、俺ら別れるか?」
「いやだよ別れない」
「俺の話し聞いとった?」
「うん。」
「冬が来る度に一人ぼっちになるぜよ」
「一人じゃないよ、ブン太も友達も親もいる。それに仁王だっている。死んじゃうわけじゃないんでしょ?春になれば起きるんでしょ?ならわたしは待ってる。仁王が起きるのをずっとずっと」
「………」
「……だめ?」
「けど」
「仁王、好きだよ」
「………」
「たまに一緒にお昼寝していい?仁王の寝てるベットでさ。同じ夢を見よ。ね?」
そう言って笑ってみせると大好きな仁王の匂いでいっぱいになった。抱きしめられている。背中に回る仁王の手はやっぱり冷たかったけれど、「俺も好いとうよ」耳元で囁いてくれた彼のその言葉が全ての冷たさを吹き飛ばすくらい温かくて気にならなくなった。
仁王、仁王が寒い時はまたこうやって抱きしめあってわたしの高い体温を君に、君の低い体温をわたしに。溶け合って生温い人間になろう。わたしは、ずっと君と溶けていたい。
この心地よさにわたしはゆっくりと目をつぶる。
低体温動物
この涙の意味は悲しいからじゃなくて愛しいから
企画にお∞様へ
執筆者千代
[小説ナビ|小説大賞]
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