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… 短編集 …
今はまだ/土方

「ふ〜く〜ちょ〜、交代まだですかぁ〜?」



コイツのこのセリフを聞くのは、もう何度目だろうか。

「交代交代って、さっきからうるせーな。ちったー黙って仕事しろ。」

初詣で賑わう神社の境内。
華やかな着物姿の若者逹、孫を連れた年寄り、家族連れ、そんな中スリや引ったくりなどの犯罪が行われてい無いか目を光らせるのが俺逹、真撰組の仕事。

行き交う人の波に目を配りながら煙草に火を点け紫煙をひとつ吐き出した。

「副長っ」と緊張をはらんだ声で呼ばれ、視線を向けると隣で不貞腐れていたはずの紫野が猛スピードで走り出して行った。

「ちっ、」

何を見つけたんだと慌てて、まだ長い煙草を灰皿へと押し付け紫野の後を追うも小柄な姿は呆気なく人波に飲み込まれ消えてしまった。

「くそっ、どこ行きやがった、」

普段は生かされる速さ小柄さも今日ばかりは仇となり見失ってしまう。

「山崎ィイ、紫野が男を追ってそっちへ行った、探せ。」

紫野が向かったと思われる方向に居る山崎に無線を繋ぐ。
「…スリか何かですかね?了解です。」

無線を切って頭に入っている境内の地図を思い浮かべ逃げそうな方向や隠れそうな建物などを考えながら人混をみかき分け紫野の姿を探しながら走る。



「ちょっと走っただけで息切れしてんじゃん。ほ〜ら、そろそろ観念なさいよ、」



微かに聞こえた紫野の声に足を止め建物の陰から様子を伺う。

賑わう境内からは、かなり離れた小さな祠が並ぶ薄気味悪い場所で息を切らし肩を大きく揺らすチンピラ風の男と紫野は対峙していた。



「う、うるせぇっ!お前ぇみてぇな、ちっせぇ小娘が男の俺に勝てると思ってんじゃねぇぞっ!コラァっ!」



息巻いた男の言葉に“プチ”そんな音が聞こえた気がする。

紫野の禁句ワード言っちまったよ、あの男。



肩をピクリと揺らした紫野が抜刀する。

「お兄さん、いい度胸してんね〜。これでもアタシ一番隊の副隊長だからね?知ってる?一番隊って斬り込み隊なんだよ?」

そう言って右下段に構えていた刀を峰から刃に切り替えた。

「己の命顧みず敵陣へ突っ込み、歯向かう人間を斬り殺し、次への道を開く役割。だからね逆らう奴はみーんな殺してもいいんだよね〜。」

そう言ってニッと口角を上げ楽しげに笑った紫野に男も驚いたのか慌てて懐からドスを抜き紫野へと向ける。

「あらら、そんなモンまで持ってたの?危ないなー。」

真っ直ぐ男に視線を向けたまま一歩ずつ近づいて間合いを詰めて行く。

軽口に、まだあどけなさの残る小柄な容姿からは想像出来ないほどの威圧感を放ちながら近づく紫野に気圧された男が僅かに後ずさった瞬間

それを見逃さず低くい姿勢のまま猛スピードで目の前まで行き、一歩左へ移動して男の一振りを交わし、そのまま地面を蹴った勢いのまま男の脇腹へ刀を打ち込む。

勿論、寸前で峰に変えて。



「うがっ!!」



そのまま崩れた男の後頭部に塚で一撃を食らわせ ると男は呆気なく気絶した。



「副長に有難う言っときなさいよ」
“死なずに済んだんだから、”


後半の声が聞こえず俺に有難うを言えって何なんだ?と疑問を感じながら現場へ到着した山崎逹に合わせて紫野の元へと合流する。






「お手柄だな、紫野。奴さんスッた財布山程隠してたらしいぞ。」

男を山崎逹に任せ本部に戻ると一足先に本部を置く社務所へと戻り暢気に茶を啜る紫野に、そう声をかけた。

「へー、じゃあ、お手柄のご褒美に何か下さい、副長。」

「あ?ご褒美だぁ?」

「そうだ!りんご飴!勤務終わったら帰りに、りんご飴買って下さい。」

「りんご飴って…お前ェはガキか、」

ぷぅと頬を膨らませ“どーせ副長に比べたらガキですよー”と、ぶつくさ言う紫野をフと思えば、一番隊などという斬り込み隊に身を置くコイツもまだ18と本来ならば、まだその辺の小娘と変わらねぇんだと可笑しくなる。

「仕方無ねぇ、ま、お手柄だし、たこ焼きも付けてやるか、」

「やったーーーっ!!」

「と、その前に、だ、」

「へ?」

たこ焼きに浮かれた紫野が何を言われるのかと固まる。

「さっきの男に副長に有難うって言えっつってたろ?何でだよ?」

「あー、聞いてたんですかぁ…」

何だかバツが悪いらしく視線を逸らした紫野が口ごもる。

「何でだ?」

「…。」

「言えねぇ様な事か?」

「…いえ、そうじゃ、」

「じゃあ、何だか?」

「…アタシが現場から帰血の匂いさせて帰ると副長いつも悲しそうな顔するから…、アタシが人殺しするの嫌なんだなーって。だからなるべく殺さないようにって思って…そのお陰であの男命拾いしたんだからと…」



自分が人を斬ると俺が悲しそうだから…



「仕事だから仕方無いんですけど、副長の悲しそうな顔、あんまり見たくないんですよね〜…」



そんな理由、



「…紫野、俺ァな、まだ年若い女のお前に斬り込みなんてさせてる事を逆に申し訳ねぇと思ってんだよ。真撰組じゃなきゃ、俺が入隊させなきゃ今頃は普通の女として生きてただろうにってよ、」



コイツの素早さ、腕を見込んで真撰組に入れたのは俺。

同時に人並みの女としての生活、幸せをも奪った…
それを申し訳なく思っていた気持ちが違う形でコイツに伝わってしまっていたとは…



「…副長、それは違います、」



“紫野は副長のお役に立てて、真撰組に居れて幸せですから”



そう言って、やんわりと笑む紫野に心臓がドキリと鳴る。



「俺ァ、仕事の責任は持てても、お前ェの人生の責任までは持てねぇからな…、」

「別に持ってくれてもいいですけど?」

「なっ!?ンな事簡単に言うんじゃねぇよっ!!」

「じゃ沖田隊長にでも頼んでみるかなー。一生アンタの背中護らせろ、ってねー。」



それが冗談だとわかっては居ても何故か胸糞悪ィ…



「お前ェ、本当にバカだろ?」

「えー、副長それは酷いですっ!こんなにも良く働く部下に、」

「総悟の嫁になんかなったら、もっと酷ェ事言われっぞ?」

「あ、やば…沖田隊長ドSだから、そんな事言ったら現場でソッコー盾にされそうだ、」



ケラケラと笑い飛ばす紫野、



「仕方無ェ、お前ェが現場で使いモンにならなくなったら…」

「なったら?」



“副長補佐の座を一生保証してやるよ、”



「えー、紫野、書類整理は向いて無いと思うんですけど、正座苦手だし…」

「てめぇ…、やっぱりバカだな、バカだ、バカ。」

「酷っ!!副長酷いっ!!」



どうやら本当にわかってねぇらしい、

俺の隣を一生保証してやるっつったのによ、




先程以上に頬を膨らませ剥れた紫野が可笑しくもあり、可愛くも思える。

コイツが傍に居りゃ一生退屈しなさそうだ、



「あーあー、悪かった、悪かったよ。鯛焼きも買ってやっから機嫌直して仕事しろ。」

「鯛焼きーっ!!紫野、見廻り行ってきますっ!!」



“きゃー副長、太っ腹っ、”と鯛焼きに釣られ見廻りに出て行く紫野の背中に、そっと呟く



今はまだ教えてやらねぇが

一生副長補佐にしてやるつった意味に

なるべく早く気付けよ





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あきゅろす。
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