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… 短編集 …
キスパニック/土方

時は十二月二十四日ーーー

真撰組屯所ではクリスマス会と忘年会を兼ねた慰労会が大広間で賑やかに行われていた。



「紫野、飲んでやすかィ?」



隣席の隊士と談笑していた私に不意にかけられた声。

嫌な予感を感じつつ顔を向けると、そこには鬼嫁の一生瓶を抱き、既に目のすわった沖田隊長が居た。

「は、はいっ!飲んでますよーっ!!この通りっ!」

“同じ様に飲んでいては後で大変ですから…”と女中さんの気遣いで既に中身が水と化したグラスを少し上げて見せる。

「まだまだ飲み足りねぇだろィ?隊長の俺が直々に注いでやるから、ソレ空にしろィ。」

ぐっと一生瓶を傾けニヤリと笑った目が怖い…

「あ、いえ、あの…」

「あぁ?お前ェは上司の俺の酒が飲めねぇってんですかィ?」

「い、いえ、そう言う訳では…」

ぐいぐいと迫ってくる目のすわった隊長の威圧感はハンパない…



ヤ、ヤバイよッ!!

私、ピーーーーーンチッッツ!!!!!!!



「獅堂さ〜ん、上司命令じゃ仕方無いよねぇ〜」

「隊長を怒らせたら後が怖いから〜」

目敏くそれを見つけた隊士達が至極楽しげに沖田隊長の援護をしてくるのがムカつく。

「…頂戴します。」

仕方無く水滴を纏ったグラスの水を飲み干し、空にして沖田隊長の前へと差し出す。

先ほど以上に口角を上げドSを丸出しにした沖田隊長によって溢れんばかりに鬼嫁が注がれていく。

「さァ、俺が注いでやった、ありがてェ酒だ。飲めィ。」

助けを求め、こちらを伺う隊士達を見ても“捕まって可哀想に”という視線が送り返されるだけで、皆、酔った隊長に逆らえるはずもなく見守っているだけだった。

えいっと気合いを入れ、アルコールがキツく香るグラスを口へと運ぶ。

ぐいっと一口。

慣れないアルコールに喉が焼け、思わず眉間に皺を寄せ口をぎゅと結ぶ。

それでも沖田隊長、他の視線は変わらず、その目は逆に“おもしろいから、もっと飲め”とも言っているようにも見えた。

はぁ、と口内のアルコールを逃がす様に、ひとつ息を吐き“みんな怨んでやるからなー”と胸の内で思いながら卒倒覚悟で一気に喉へと流し込む。

「おーっ、なかなか良い飲みっプリじゃねェかィ。さ、もっと飲めィ。」

一度飲んでしまえば後は流れ作業の様に空になれば注がれて行く鬼嫁。

二杯目は勢いで流し込み、三杯目には口内や喉が麻痺して来て何を飲んでるかすらわからなくなり、四杯目を飲み干す頃には思考能力が限界に来ていた。



「…紫野、」



朦朧とした意識の中、沖田隊長から耳打ちされた言葉。



“土方のヤローの首を取ってこい。上司命令でィ”



副長の首…?



何で首なんか?

あー、副長の座のためか。

副長、斬られてくれるかなー?

ま、斬れなくてもいっか。

とりあえず副長んとこ行けるし。



止まりかけた思考で、憧れの副長の傍へ行けるとお気楽な考えをしながら刀を手に立ち上がり、ふらふらと上座に座る副長の元へと歩みを進めた。



「…ふっくちょぉー…」



すぐ前まで行き、にっこり笑って鞘から刀を抜き、一歩踏み込んで片膝立ちの姿勢で右下から掬う様に勢い良く斬り上げた。

女だとは言え一番隊副隊長を任される私の一刀。

“うおおぉぉーーーっ!!”と言う驚きとも歓声とも取れる声に顔を上げると片眉を吊り上げた副長と視線が合い首を傾げて、にっこりと笑ってみせる。



「…随分と頂けねぇ余興だな、紫野」



くわえていた煙草を半分斬り落とされた副長の瞳孔が割増どころかガン開きだ。



「沖田隊長がぁ、ふくちょーの首取ってこいって言うんでぇ、チャレンジしてみましたぁ。あはっ。」

「あは、じゃねぇだろォォオオ!!」

そう怒鳴る声も徐々に遠くに聞こえ、青筋を立てた副長の顔が歪んでぼやけてくる。



あー、怒らせちゃった。

刀なんか向けりゃそりゃ怒るよねー。

とりあえず謝っとくか。

うん、それがいい。



酔っているがゆえの単純な思考から思い付いた謝り方。

座って刀を横に置き、目の前の膳をどけ、膝を突き合わす様な状態まで副長に近づく。



「…な、なんだよ?」



刀は持っていないものの先ほどの行為から、また何かされるのではないかと副長が警戒しているのが声から伝わってくる。


「ふっくちょぉー、すみませんでしたぁーっ」



言い終わらないうちに、膝立ちになり、むんずと両手で副長の両頬挟み



そのままキスをしたーーー



そっと唇を離し、驚きに瞳孔どころか目もガン開きになっている副長。

私の方はと言うと少し動いたせいで更に酔いが回ったのか、へらっと笑って、そのまま副長に倒れ込み意識を手離した。











「ーーーあっ、つぅっ…!!」



翌朝、目が覚め、身体を起こそうとすると何かで殴られたかの様にズキズキと痛む頭。

そっと片目を開けて見ると、どうやら自室の布団の中に居るらしくホッとする。

しかし、その先に見えた片手に、しっかりと握りしめられた隊長格の隊服の上着にクエスチョンマークが連発する。

「何で隊服?誰のだろ?えーっと、夕べは慰労会で、沖田隊長に鬼嫁飲まされて…それから…それから…それから?」

痛む頭で考えてみても、そこからが全く思い出せない。

皺だらけになってしまった隊服を手繰り寄せると煙草の匂いがして副長の物だと確信する。

ここに有るという事は副長に迷惑をかけてしまったのだと更に頭痛くなる。

「…はぁ…、とりあえず副長んとこ隊服返しに行こ…っかな…」



さっと着替えをし身支度を整え、顔を洗いに行くと廊下ですれ違う隊士達の目が何だか好奇な物を見ている様に思えて気になる。



“視線が痛いよーーーっ!!!本当に何かやらかしたんだ…?”



アルコールで少し浮腫んだ顔を洗い、副長室へと向かいながら再度記憶を遡るも沖田隊長のドSっぷり以外は全くもって思い出せない。

考えている間に副長室に到着してしまい、ひと呼吸してから“副長、”と声をかけた。

“入れ、”と短く返事が返され障子を開けると上着を着ていない隊服姿の副長が既に書類整理を始めていた。

「…あ、あの…、夕べはご迷惑をかけてしまった様で大変申し訳ありませんっ!!」

そう言いながら綺麗に折り畳んで持って来た隊服を差し出す。



「あぁ、大変だった。皆の前でなぁ、」



そう言われ、余りの申し訳なさに溜め息を吐いて項垂れる。

「溜め息吐きてぇのは、こっちだ、バカ。」

そう言われても全くわからずでは仕方無いので思い切って聞いてみる。

「あの…、副長、私全く記憶がなくて、その…、何をやらかしたんでしょうか?」
“ここまで来る廊下でも皆の視線が痛いし…”

そう言うと目を見開いた副長が溜め息を吐いて昨夜の出来事を話始めた。



隊長に飲まされ首を取ってこいと言われ副長に斬りかかった事

そして意識を失いそのまま副長の上へブッ倒れた事

隊服を握って離さないので副長に部屋まで運ばれた事



「ったく…、未成年のクセに記憶無くなるほど飲んでんじゃねーよ、」

それを聞いて更に頭が痛くなる。

副長の首を取ってこいなんて言う隊長も隊長だが、いくら酔っぱらっていたとは言え、敬愛する副長に刀を向けた挙げ句、ブッ倒れ運ばれてしまうだなんて恥ずかしすぎる…



「…本当に本当に申し訳ありませんでしたっ!!」

もう、これは土下座以外考えられないと頭を深々と下げる。

ちらりと視線をあげると、その様子を腕を組み片方の手を顎に当てながら何かを考えていた様な副長の口角が少し上がったかと思うと、



「なら、夕べみてぇに謝ったら許してやるよ、」

「へ?夕べみたいに、ですか?」

「あぁ、記憶ねぇんだったな、」

そう言うのと同時に、ずいっと副長の身体が近くなりドキリとして思わず後ずさる

「ふっくちょぉー、すみませんでしたぁーつってだな…」

そして頬を両手でガッチリと挟まれ逃げ場を無くす

「え?うわっ!?何をっ!?ふ、副長っ!?」

逃げ場を求め後ろへ仰け反る様な姿勢になり倒れそうな身体を片手で支えた途端、覆い被さる様な感じで重ねられた唇…



びっくりし過ぎて頭痛なんかぶっ飛んで行ってしまった



近すぎる副長の顔に



目の前がチカチカして



心臓が飛び出しそうだ



唇が離れ身体を起こした副長がパニッくって変な体勢のまま固まった私を見てクツクツと笑っている。



そりゃパニックにもなりますって!!
憧れの副長に刀を向けただけでなく、キ、キスしただなんてーーーーーっ!!!!

きっと今の私はム〇クにもまけない真っ青な顔だろう。



「夕べは自分からやっといて、なんつー顔してんだよ。仕方無ェ、今ので許してやるよ、」



“今度は、もっとじっくりと、な?”



そんな副長のセリフが更なるパニックを呼ぶ…







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