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… 短編集 …
雪すらも溶かして/沖田

木々や街灯、あちこちに電飾が飾られクリスマスの音楽が絶え間無く聞こえるようになった街並み。

今にでも雪が降って来そうな分厚い雲が広がる空を見上げる。



「…寒っ…」



来年こそは彼氏をゲットして見廻りする皆を後目にクリスマスデートをと思ってから一年…

念願叶わず今年のクリスマスも見廻りとは…

残念過ぎる年頃の乙女な私。



「ねー、沖田隊長ー、甘酒でも飲んで帰りません…かって、居ないじゃんっ!」



振り返ると一緒に見廻りに出たはずの沖田隊長の姿はそこには無く、クリスマスの買い物やデート向かうであろう人々が行き交うだけだった。



「逃げられた…、また副長に怒られるぅ…」



溜め息をひとつして、仕方無く1人で見廻りを再開する。

ルートを辿るりながら沖田隊長の立ち寄りそうな場所を途中覗いてみる。



「っ!!居たっ…」



それは、いつもの駄菓子屋



店から出て来る姿を発見して見廻りから逃げた罰に、びっくりさせてやろうと、そっと後を追いかける。

物陰に身を隠しながら沖田隊長を追うと、ひょいひょいっと裏路地へ入り細い道をどんどん進んで行き、びっくりさせるどころか撒かれない様にするだけで大変だ。

何度もそれを繰り返し、突然沖田隊長の足が速まり気付かれたと思った途端、少し拓けた場所に出て辺りを見回すも、そこには沖田隊長の姿は見当たら無かった。



“ちくしょー…撒かれたか…”



軽く舌打ちをして仕方無く追跡を諦め来た道を戻り始める。



「んっ!!!」



踵を返した、その瞬間ーーー

後ろから口を塞がれ両腕はガッチリホールドされる様な形で拘束されてしまう。



「…大人しくしろィ…」



背後から聞こえた声は沖田隊長で拘束した腕を振り払おうとしても、その強い力に敵わない。



「紫野、俺の追跡ご苦労さん。だがねィ、気配がだだ漏れで丸わかりだったぜィ。」
“これが蝦夷志士らな、お前は今頃死んでやす。”



そう言われ己の未熟さを痛感する。

相手が沖田隊長だとわかり強張らせていた身体の力を抜くと口を塞いでいた手は離された。

だが身体に巻き付いた腕は離れるどころか更に両腕で、しっかりと拘束される。

「あの…、沖田隊長、私の未熟さは良くわかりました。ご教授有難うございます。しかし、未だ拘束されてる意味がわかりません。いい加減離して貰えませんか?」



真撰組の隊士が街中でこんな姿を曝すなんてっ!!

こんな姿を沖田隊長のファンに見られたら後が恐ろしいっ!!



「煩ェ、お前のせいで寒ィ中ウロウロして身体が冷えちまったんでィ。上司命令だ暫く湯タンポ代わりになりやがれィ。」



はぁっ!?湯タンポだぁ!?

なんと言う上司だっ!!

これはパワハラじゃないかっ!!

絶対、副長に訴えてやるぅっ!!



しかし、命令だと言われると逆らえず、はぁ、と溜め息をつき、“ちょっとだけですよ”と諦め口調で言うと笑いを堪えているのであろう、肩を震わす振動が腕から伝わってくる。



“ちくしょーっ!!ドSめっ!!”



不意に片方の腕が目の前まで上がり、ぎゅぅと握られていた拳が開いた。



「…紫野、お前にやりやす。」

“俺からのクリスマスプレゼントでィ”



それはキラキラ光る赤い硝子玉の付いたオモチャの指輪で、先ほどの駄菓子屋ででも買ったのだろうか。



「へ?あ、ありがとう、ござい、ます…」



そう言うと身体に巻き付いていた腕が弛んだので沖田隊長の手のひらから、そっと指輪を摘まみ取った。



「…来年は本物をプレゼントしてやりやす、」



”だから…、お前は来年のクリスマスも俺と見廻りでィ“



「えっ!?」




そう呟かれた言葉に驚いて振り向くと、そこには既に沖田隊長の姿は無かった。



「来年は本物をくれるって…?」



それが告白なのだと理解でき一気に上がる頬の熱。

その熱は、ちらちら降りだした雪すらも溶かしてしまいそうだった。




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