… 短編集 …
プリン/3Z土方
「トぉーシぃぃーっっっ!!!!」
「うわっ!!」
背後からの余りにもな衝撃に前のめりにコケそうになった俺。
背後にしがみつく気配を振り返れば案の定、涙でグチャグチャな顔をした紫野が居た。
何で泣いてんのか何て今更聞かなくても、またフラれたからだと簡単にわかる。
「またか。今度は誰だよ?」
そう聞いてやると、きたねぇ泣き顔が更にグシャグシャになる。
「あーもうっ、泣くな、泣くなっ。食堂でプリンでも奢ってやっから。」
そう言うと抱きついていた腕を離し制服の裾をギュッと握ったままの紫野が、ずびっと鼻をすすりコクリと頷いた。
今年に入ってから、こんな会話は、もう何度目だろうか…
紫野とは幼なじみで小中高とずっと同じ学校。
共通の友達も多く何かにつけ一緒に行動する事が多かった。
なのにだ、
ここ数ヶ月、俺からの誘いを全て断り、学年を問わず告りまくったかと思えば玉砕し、そして今みたいに俺に泣きついてくるを繰り返している。
全く、何を考えてんだか…
未だ鼻の頭を真っ赤にしたままでプリンを口へ運ぶ紫野の隣に座り、その様子をじっと見つめる。
ったく…毎回プリンを奢らされる俺の身にもなりやがれってんだ。
「なァ、」
食う手が止まりバツが悪ィのか俯いたままで顔を上げやしねェ紫野に疑問をそのままぶつけた。
「誰かれ無く告ってフラれて、お前ェは一体何がしてェんだ?」
「…。」
「そのフォローを毎回させられてる俺にも言えねェってのか?」
「…。」
ハァ、訳わかんねェ。
昔から突拍子もねぇ奴だったが高校生になってまでとは。
眉間に手を当て俯いた俺の耳に僅かに紫野の声が届いた。
「だって…」
そのままの姿勢で視線だけを紫野へと向けると俯いたままスプーンを握る手が僅かに震えている。
「だって、何だ?」
「トシが…」
「あ?俺が何だってんだよ?」
少し低めた声に驚いた紫野がビクリと肩を震わせギュッとスプーンを握りしめ更に俯く。
「悪ィ…」
“…好きなのに全然気づいてくれないから…”
食いきって逃げるつもりなのか、そう言って残っていたプリンを慌てて口へ運んだ。
最後のひと口を掬い上げた瞬間、その手を掴んで俺の口へと運んでやると赤ェ目をパチクリさせながら見てやがる。
口腔に広がる優しい甘さ。
「…お前ェに男何か出来た日にゃ俺が誰かにプリン奢って貰わなきゃなんねェだろーが、バカ。」
こっぱずかしくて逸らした俺の顔は、きっと耳まで真っ赤だろう。
「甘ェのは苦手なんだから、ンな事させんじゃねぇ。」
気づいてなかったのはお前の方。
好きでもねぇ奴を慰めたりすっかよ。
甘い甘いプリンの匂いが俺達二人を包んでいた。
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