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… 短編集 …
予約/土方

小麦粉に卵、製菓用のバター、生クリームそして苺…

お砂糖は買い置きがあるしバニラエッセンスは使いかけがあると、ひとりブツブツと呟きながら考える

苺…時季はずれで高いなーなんて思いながら買い忘れは無いだろうかと買い物カゴの中を指差し点検。



「紫野。」



不意に聞こえた自分を呼ぶ聞きなれた声に顔を向けると

「ずい分とたくさん買い込んでるじゃねーか。」

「あ、土方さん。」

スーパーの店内という事もありトレードマークのくわえた煙草には火が点いていない。

「菓子の材料ばっかだな、また総悟にでもねだられたのか?」

私の唯一の趣味であるお菓子作り。ちまちま作るのが好きでは無くて作る時はケーキ屋並み。そんな膨大な量の行き先は土方さんの言葉が示す通り真撰組がほとんどだ。

これでも結構好評なんだよ?



だってそれに…
真撰組に行けば土方さんに会えるし、ね。



「あー…、残念ながら今回は納品先が違うんです。」

納品先だなんて本当にケーキ屋かと我ながらツッコミたくなるが、この膨大な材料からしたら、そんな言い方もあながち間違いでも無いかも。

「ウチにじゃねぇのか。じゃあ誰にやるんだ?」

誰にやるんだなんて、いつ持って行っても土方さんは1つくらいしか口にしてくれないのに聞かれて、ちょっとびっくりしてしまう。

まぁ甘いものが苦手らしから仕方ないのだけど。

「銀さんが、お誕生日だから…」

そう言うと何だか土方さんの眉間に皺が少し寄った気がした。

「…そうか、」

「…えぇ。」

そうかとしか言わなかった土方さんとの間の空気が何だか気まずい。

銀さんと土方さんが仲良く無いのはなんとなく分かってるけど、私には関係無いし、友達としてお誕生日を祝うくらい自由なはず。



「…家まで送ってやるよ。半分よこせ、荷物。」

会計を済ませ出入り口へ向かうと土方さんか居て、どうやら待っていてくれたらしい。

「えっ、あ、すみません、有り難う御座います…」

荷物を半分差し出された手に渡し自宅へと並んで歩くが無言が続く。

ちらりと目線だけを土方さんに向けると少し俯き加減で何かを考えてるらしい。

「あ、あの、お仕事の途中だったんじゃ?」

沈黙に耐えきれず言葉をかけてみるが“あぁ”とだけ返され空気の転換を阻止され、また無言に戻ってしまう。

そうしているうちに自宅近くまで来てしまい、このまま別れたんじゃ次、真撰組に行きにくいじゃないか、なんて思考で焦ってしまう。



「…この間のよォ…」



自宅が目の前に迫った瞬間に土方さんから発せられた、いつもより小さな声に“えっ?”と聞き返す。

「何か貝殻みてぇな形したヤツ。」

「あぁ、この間のマドレーヌの事ですか?」

「…あれ、美味かった。」

え?何?

今、美味かったって聞こえたけど聞き間違い?私の耳も遂に壊れたのか?

そりゃー、土方さんにも食べて貰えるようにと極力甘味を控えて作ってあるんだから。

それでも思ってもみない言葉に目を見開いて、きょとんとした私に少し俯いた土方さんが言葉を続ける。



「…なぁ、紫野…」



躊躇いがちな言葉と表情。



「…今から言っときゃ俺ン時も…作ってくれんのか?」



な、何言ってんだ?この人は?甘いもの苦手なクセに、いつも申し訳程度にしか食べてくれないクセに、なんて思ったけど

「…土方さんのお誕生日に、ですか?」

そう確認してみると、また“あぁ”とだけ、こちらを見ないままの返事。

「えっ、あっ、もっ、もちろんっ!喜んで作らせて貰いますっ!」

素直に嬉しかった。

本当は土方さんだけに差し入れしたいけど、それではあからさま過ぎて恥ずかしいし、そんな事沖田さんにバレたら絶好の獲物にかなりかねないから。

いや、もうバレてるかもだけど…

これでこそ、みなさんにと差し入れしていた甲斐があったというものだ。

私の返事を聞いた土方さんの目元もさっきとは違い優しくて、ほっとする。

「じゃあ、頼む。あんま甘くねェヤツな。」

“ほらよ。”と荷物を受け取りながら銀さんには悪いが買った材料でマドレーヌを作る計画を既に立てた始めていた。

もちろん銀さんのケーキは作るけど、土方さんが美味かったなんて、せっかく言ってくれたんだもん。



「じゃあ、また、な。」

「はい、また…」



お誕生日は、まだまだ先だけど待ってて下さいね。

甘さは控えめだけど甘い甘い私の気持ちを込めたケーキをきっと貴方に届けますから。

来た道を帰って行く隊服の背中を見送りながら来年のお誕生日を思い笑みが零れた。







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銀さんのお誕生日祝いを書くつもりだったのに(汗)
最近、土方さんにどっぷりし過ぎたからか。orz




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