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… 短編集 …
小さな約束/土方

午後の暖かな日が当たる食堂の一番奥のテーブルで頬杖をついて書類整理をしている副長の姿を台所の端から、そっと見つめる。

食事の時間帯以外はガランとした空間の食堂で極たまに仕事をしてらっしゃるのは気分転換なのだとか。

ここで仕事をしてる時の副長は何だか穏やかで、日頃見る厳しい雰囲気とのギャップが好きだ。



「…紫野、茶、入れてくれねぇか。」



「…あ、はい。」



何かご用が有ってはと掃除に行く皆から残された私は夕飯の仕込みをしながら副長の様子を伺っていた。

小さい火で沸かしておいたヤカンから一度湯飲みへ湯を注ぎ、新しい茶葉を入れた急須へと湯を移す。

副長は濃い目が好き。

副長がここで仕事をされる度に残され、そうしているうちに覚えた好み。

湯気をたてた湯のみを盆に乗せ静かに副長のテーブルへと近づく。



「どうぞ。」



そっと湯飲みを差出し邪魔をしてはと台所へ戻ろうとした



「…悪ィ、灰皿も頼む、」



「…あ、気付かなくてすみません。今お持ちしますね、」

いっぺんに言ってくれればいいのにと少し思ったが、余り話せる機会も少ないのだし、まぁ、いいかと食堂前方の棚へと行き灰皿を手に副長の元へと戻る。

「どうぞ。」

取りに行っている間に点けられた煙草の煙が副長の回りに僅かに漂っていた。

「すまねぇな、」

ふぅ、と吐き出された紫煙の向こうに見える少し俯いた副長の表情が好きだったりする。

「紫野も一緒に飲めよ、」

そんな視線に気付いたのか副長が“俺も休憩にすっから”と言ってペンを置いた。

「お邪魔しちゃいましたね…」

「いや、構わねぇさ、」

そう言って薄く笑った副長にドキリとして自分でも顔の熱が上がるのがわかる。

それを気付かれたくなくて急いで台所へと戻り、早くなった鼓動を落ち着かせようと大きく息を吐いた。

湯を足した急須と自分用の湯飲みを持ってテーブルへと戻り、少し減った副長の湯飲みに新しいお茶を継ぎ足す。



「…茶、」

「え?」

「入れんの上手ェよな、」

「そ、そうですか?」



少し口角を上げた副に落ち着かせた心臓がまた煩くなりだし、赤くなりそうな顔をお茶を啜って誤魔化した。



「…あの、よォ…」



副長から発せられた言葉に驚き顔を上げると逆に副長に視線を逸らされた。

「はい?」

「いや、なんだ、」

「え?」



ライターをカチカチ言わせながら何か言葉を探しているようだ。



「今度、だな、」

「はぁ?」

「だんご、でも…、」

「だんご、ですか?」

「あ、あぁ…」

「あぁ、お茶菓子ですか?今持って来ますね。」

そう言って席を立とうとしたが“違ェよ、”と呼び止められた。

じゃあ、だんごが何だと言うのか?
副長の顔が何となく赤い気がするのは気のせいだろうか?

「…今度だんごでも買ってくるから、その…一緒に食わねぇか、」

「一緒に、ですか?」

「…あ、あぁ…」

一緒にと言うことは、こうして副長と、またお茶が飲めるのか。

「あ、はい、お仕事の邪魔でなければ…」

「…じゃあ、今度は部屋で…」

「!?」



副長の部屋でだなんて…
そんなの心臓が爆発しちゃうじゃないか。



何と返事して良いものかと悩んでいると隊士さんが血相を変えて入って来て何か慌てた話をしている。

「少し出なきゃなんねぇ。悪ィが、このままにしといてくれるか、」

「あ、わかりました。」

“すまねぇ、”と笑んだ副長に息を飲む。

そんな表情、心臓に悪いよ、本当。



「…さっきの、約束な?」



約束だなんて、

期待しちゃいますよ?副長?



「…はい、」





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あきゅろす。
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