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… 短編集 …
抱き枕/沖田

深夜、厠に行きたくなってしまったが寒いので我慢しようかと思ったが尿意は増すばかりで仕方無く羽織を着て行く事にした。

昼間は賑やかな屯所も真っ暗で、洗面所の蛇口から滴り落ちる水滴の音が僅かな恐怖を煽る。

眠気にぼやける頭でふらふらと厠への廊下を歩み用を足すとますます濃くなる眠気に自室へと急いだ。

戻る廊下で、ふと思ったのは抜け出して来た布団は、まだ暖かいだろうか、そんな事を思っているうちに自室に着きスッと静かに障子を開ける。

深夜にあまり物音を立てると隣の部屋の沖田隊長に何を言われるかわかったもんじゃない。

障子を開け目に飛び込んで来たのは空のはずの布団の盛り上がり。



「?」



今晩は抱き枕使ってたっけ?と考えてみるも眠気と寒さに勝てず、ぶるりと身震いを1つして急いで布団へと潜り込む。



良かった、まだ暖かい。



後どれくらい眠れるだろうかと意識を手放そうとするのと同時に手を伸ばした先の抱き枕のはずの物から伝わるた固い感触。



「…ん?」



もぞもぞと手を動かし更に感触を確かめる。

温かいが、やはり固い手触り。



「…くすぐってェ、」



聞こえた声に驚き瞼を開くと目の前の沖田隊長の顔、緋色の瞳と視線が合い一気に眠気を吹き飛ばす



「えっ!?おきっ、むぐっ!?」

「煩ェ、静かにしろィ。皆が起きて来るだろィ?それとも俺と一緒の布団に居るのをみんなに見て貰いてェか?」

こんな恐ろしい場面を誰が見せたいものかっ!!とブンブン首を横に振る。

皆だけなく副長に見られようもんならソッコーで介錯付き切腹だ。

息が詰まりそうになり口にへばりついていた沖田隊長の手をひっぺがす

「…ぷはぁっ、く、苦しかった…、ってゆーか、何でここに居るんですかっ!!」

「当たり前ェだろィ、ここは俺の部屋だからねィ。」

「えっ?隊長の、部屋?」

「紫野も俺の寝込みを襲うたァ、随分大胆ですねィ。」

「なっ!?襲ってなんかっ!!」



しまった…

寝惚けてて、ひとつ手前の隊長の部屋へ間違って入ったのか…



「すっ、すみません!!」

「待てェ、」

布団から抜け出そうと慌てて起こしかけた身体は隊長の腕に捕まり呆気なく布団の中へと引き戻された。



「俺の安眠を妨害しといて、すみませんで済むと思ってんのか?紫野、」



うつ伏せに布団に倒れた私に隊長のドSセリフが降ってくる。

「寝惚けてただけで妨害する気なんて全くなかったんですってぇ、許して下さいよぉ…」

「そんなんで許して貰えるとか思ってんなら俺も舐められたもんでィ。」

「俺が舐めてんのは土方さんだけでさぁ、ってねー、」

「やっぱ俺を舐めてんじゃねェか、」

そう言って伸びて来た腕は脇腹をめーいっぱい擽る

「ふぎゃーーっ!!たっ、隊長っ!!ごめんなさいっ!!ギ、ギブっ!!うがぁっ!!!」

身を捩り必死に布団の外へと逃げようとする私をその腕は突然抱き締めた。



「っ!!」



力のこもる腕に



背中に伝わる体温に



首筋にかかる息に



思考が飛びそうだ



「…眠ィ、じっとしてろィ、」



そう呟いたかと思うと聞こえてくる規則正しい呼吸音に強張らせた身体の緊張が解ける

仕方無い…

今起こすとまた何をされるかわからないと脱出は目が覚めてからにして僅かでも眠りにつこうと、そのまま同じ様に瞼を閉じた。



沖田隊長の腕の中、

なんか暖かくて、心地いい

人の体温と言うのは

こんなにも安心するものなのか



どれ程過ぎたか不意に戻った意識の中、遠くに聞こえるのは副長が隊長を呼ぶ声、

あたしは今日非番だから起こされないんだよねぇ

って、そう言えば夕べ間違って隊長の部屋へ入って、そのまま寝ちゃったんだっけ…



ヤ、ヤバイっ!!



危機はすぐそこまで迫って来ているっ!!



急いで脱出しなければと慌てて身体を起こそうとした



「…大丈夫でィ、」

「いや、でも副長がっ!!」

「ここは紫野の部屋だから土方さんも勝手に開けて入って来たりしねェ、」



は?私の部屋?

一体どういう事だ?



「え?ここ沖田隊長の部屋じゃ…?」

「嘘、」

「は?」



“間違えて入ったのは俺でさァ、”



「ま、間違ったって言うより、わざとですけどねィ、」

「わざとっ!?」

「まー、いーじゃねェか、紫野、俺を半日匿いなせェ、」



夕べの一件が、わざとなうえに半日匿えとは、一体どう言う事だ?



「…沖田隊長、一体何がしたいんです?」

「…二度寝、」



“紫野と一緒に居てェだけでィ、”



そう言って再び閉じ込められた腕の中

首筋に降ってくる甘い口付けに

あたしは抱き枕かと胸の中で、つっこみを入れつつ、強引さにも程があると呆れる

ま、こんな非番も悪くないかと、また瞼を閉じた




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