… 短編集 …
膝枕/沖田
「…煩ェ、ブス、」
鼻歌混じりに中庭で洗濯を干していると木陰に寝そべった沖田隊長にぼやかれた。
「また、そんな所で昼寝ですか?見廻りはどうしたんです?見廻りは?」
隊長のうっすら開けた片目が“うぜぇ”と言ってる様に思え溜め息を吐く。
「早く残り干しちゃわないと、」
ムカついたからと言って下手に言い返すとロクな事は無いと鼻歌だけはやめて仕事を再開する。
女中頭が今日は洗濯日和だと言うので隊士さん逹のシーツなどを全部剥がして洗ったので洗濯が大量だ。
よいしょっと背伸びをして高い位置へと干し終えた竿を上げる。
「相変わらず、ちっせェ。」
いつの間にか後に来て居た隊長の声が頭上から呟く。
「うわっ!!」
その声に、びっくりして竿を持っていた手を離してしまった
ヤバいと思ってぎゅっと目を瞑ったが、それは落ちてこず、そろそろと目を開けて見上げると、それは後ろに居た沖田隊長によって頭上で受け止められていた。
「危ねぇだろィ。こんなので頭打ったら更にバカになりやすぜィ。」
「た、助かった…」
頭を打たなかった事に安堵して、はぁ、と大きく息を吐く。
「ちっせェクセに無理してやらねェで誰かに手伝って貰えばいいじゃねぇかィ。」
確かにそうだけど、元はと言えば隊長が脅かすからじゃないかと口をへの字にして睨んでみせる。
「ちっ…、仕方ねェな。手伝ってやるから睨むな、ブス。」
先ほどからブスブスと暴言が吐かれ、相変わらずのドSっぷりだが、自分のせいで危ない目に遭わせたと言う自覚は多少でもあるらしく、珍しくも手伝いを勝手出てくれた。
ここは素直に手伝って貰った方がいいのか、後で無理難題を言われても困るので断った方がいいのか…
少し悩んだが、私の背丈ではこの大量の洗濯物を干すのに膨大な時間がかかりそうなので有り難く手伝って貰う事にした。
「お忙しい沖田隊長に手伝わせて大変申し訳無いのですが、相変わらず“ちっさい”ですので干した竿、上げてって下さいますかね?」
少しは嫌味も言わないと気がおさまらないと、ちっさいと言われた事を強調したりして頼んでみた。
「あ、手伝いの報酬は後でしっかり貰いやすから気にしねェで下せェ。」
「えぇっ!?報酬ぅぅう!?」
ニタリと笑った隊長を見て、やっぱり頼むんじゃ無かったと思った時には後の祭りだ。
「…あんまり難しい注文は無しですよ?」
そう言うと“さァ、それはどうだかねィ。“とサラリと返す表情に何を要求されるんだと恐ろしくなり、また溜め息を吐く。
さすがに二人だと大量の洗濯物も早くに干し終わり、洗濯物を入れていたかごを片付けてくると隊長に伝え一度屋内へと戻る。
脱衣所にかごを置き、そして食堂でお茶を2つ入れて中庭へ戻ると縁側に腰掛けた隊長が、ぼぉっと風に揺れるシーツを眺めていた。
「有難うございました。はい、お茶どうぞ。」
そう言って自分と隊長との間に盆を置き持って来たお茶をすすめる。
すると間に置いた盆をすっと退けられ何をするのかと見ていると“よっこいしょ”と言う声と共に膝の上に隊長の頭が乗せられた。
「ちょ、ちょっと、何してんですかっ!!」
「見てわかんねェのかィ?膝枕でィ。報酬貰うって言いやしたよね?」
先ほどと同じように片目だけを開けた隊長が、それだけを言ってまた瞼を閉じた。
膝枕が報酬だなんて…
副長に見つかったら私まで叱られてしまうでは無いかとか色々に焦ってしまう。
それよりも怖いのは隊長ファンの女中達から誤解を受ける事だ。
うん、そっちのが恐ろしいっ!!
「…土方コノヤローなら、朝からとっつぁんの所へ行ってて居やせんから心配要りやせん。」
いや、それだけの問題じゃ無いんですけどね、と顔をひきつらせる。
「じゃあ何でィ?」
「こんな事してるの隊長ファンに見つかったら私、袋叩きに遭いますからね!!」
「ちっ…、好きな女の膝枕で寝て何が悪ィ…」
舌打ちをしてボソボソと呟くと上を向いていた顔は、ごろんと庭へと向けられた。
「へ?」
「…。」
「…今、何て言いました?ねぇ、沖田隊長っ、今何て言ったんですっ?」
そう問いかけても変に規則正しい寝息が聞こえるだけで答えてはくれなかった。
でも真っ赤な耳をした隊長は、きっと狸寝入りなんだろうと思いました。
作文?
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