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… 短編集 …
手遅れのラブソング/土方

足跡に潰され

埋まってた小さな花

誰にも気づかれずに

萎び切っていた






気が付けば、いつも視線の先に居るのは紫野で、そんな自分に心の中で深い溜め息をつく



いつの頃からだろうか、

紫野の事をこんなにも想ってしまっていたのは…



煙草に火を点けるふりをして少し立ち止まり紫野の影を踏んで“俺だけを見ろ”と呟く



何処かで耳にした、まじない



見廻りで一緒になる度に、そんな事をやってる自分に紫煙と共に深く溜め息をつく



「…ったく…」



そんな、まじないを信じてるなんて

俺ァ何やってんだか…

本当、情けねぇ…



“副長?”と掛けられた紫野の声に“あぁ”とだけ返事をして後に続く

紫野が俺なんかを見るはずもねぇのに

厳しいばかりで優しくしてやった事なんて一度もねぇし

女なのに危ねぇ仕事ばかりを強いて来た

それに互いの明日の生死すら分からねぇ
そんな俺が人並みの幸せを求めていいはずがねぇ…



もしも、だ

そんな可能性があったとしたら…

ミツバのように紫野が居なくなったら俺はどうするのだろうか…



見廻りを続ける紫野の後を追いながら、そんな事ばかりを考えていた



そんな可能性

ありゃしねぇか…



いつも堂々巡りな答えに呆れるばかりだ

地面に投げた煙草を呆れと共に爪先で踏み潰す

だが、もやもやとしたこの感情は踏み潰した火と同じようには消えてはくれない



少し先で道を尋ねられていた紫野が立ち止まったままの俺に気付き、こちらへ駆けて来て、俺の少し後方という不自然な位置で止まった



「副長、ちゃんと私だけを見て下さいよ?」



そう告げられた言葉に新しく火を点けようと取り出した煙草の箱を思わず握り潰す



「…っ!?」



“副長が影踏みのおまじないしてたの私、知ってましたーーー”



そう言われ更に手に力がこもり知られていた気恥ずかしさに息が詰まる

「そ、そーゆーのは知ってても黙っとくモンだろっ、」

「だって、いつまで経っても、ちゃんと言って下さらないから。」

「…ちっ。」



舌打ちをして、にこりと笑む紫野から視線を逸らし慌てて煙草に火を点ける



「…言える訳、ねぇだろ…」

「何故?」

「…俺ァ、他の奴みてぇに優しくなんかねぇし、」

「ええ、鬼の様に厳しい方なのは身に染みて知ってますよ?」

「仕事に明け暮れて、きっと何もしてやれねぇ…」

「自分の誕生日すら忘れて仕事してますもんねー。」

「…それに…だなっ…」

「副長っ!!往生際が悪いっ!!」

「っ…。」



近くに居ても手が届かないと思っていた

手を伸ばしてはいけないとも思っていた

じっと俺の言葉を待つ紫野があまりにも綺麗に見えて

思わず、ぐっと引き寄せて抱き締めた…



「…紫野、」

「はい、」

「俺にお前の一生の残りをくれるか?」

「じゃあ、副長の一生の残りは紫野のですね?」




腕の中で嬉しそうに俺を見上げる紫野の姿に



詰め込んだ想いが

終わり無く溢れる

止め処なく溢れる



「…一度しか言わねぇ…」

「え?」




“…紫野、愛してる…”







♪手遅れのラブソング/Gero




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