仮)森本陽呂の受難
5.
「とにかく! 陽呂に絡んできた赤い髪のチャラ男! あいつにはマジで気を付けろよっ。女癖悪いらしいから」
チャラ男って……。
確かに見た目は軽そうだったが、それは私情の入った偏見なんじゃないのか隼人……。
「どうせ、それも噂だろ?」
「噂じゃねーよ!! そいつと同じクラスの先輩情報だから、マジな話だって!」
じっとりとした俺の視線に気付いた隼人は、ムキになって言い返してくる。
「すっげー女に手が早くて、他校の女を手当たり次第に喰いまくってるって。しかも彼氏持ちの女ばっかに手出すから、修羅場が多くて、何回か相手の男が学校まで乗り込んできたこともあるとか……とにかく!女関係の揉め事が半端ないって言ってたぜ」
詳しすぎる……。
俺の事が心配で、その先輩にいちいち探りを入れたんだろう。いつも口うるさくて、ウザいと思う事が多いけど、隼人のこんなところが、いじらしくて憎めないところでもある。
「そういえば……雰囲気は怖かったけど、顔はカッコよかったよな」
あの時は、まともに直視することができなかったが、思い返せば、確かに整った顔立ちをしていた。
体格は、隼人並にがっちりとしていたが、隼人はどちらかというと……犬?
それも、大型犬でも威圧感のないゴールデンレトリバーのような穏やかな雰囲気なのに対して、あのたけるって人はそれとは対極的な、野性的な荒々しさがあった。
猛禽類を思わせる直線的な鋭い鼻梁と切れ長の目には、柔らかさや甘さなどといったものはまったくなかったが、女は、ああいうちょっと悪そうな男に惹かれるものだ。
「は?あんなチャラついたやつのどこが良いんだよっ!?」
「いや、別にいいとは言ってな……」
「信じらんねぇ!」
「だから話しを……」
「おまえ、マジで目ぇ腐ってんじゃねーの?」
……撤回しよう。やはりコイツは憎たらしい。
沸々と怒りが沸いてきて、俺はそれを溜め込むように、大きく息を吸った。限界だ。今日は、よく我慢したほうだと思う。待てを知らない駄犬には、やはり躾も必要だろう。
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